法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

口蹄疫発生の原因が民主党であるわけがない

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20100518-OYT1T00016.htm

 宮崎県内で被害が拡大している口蹄疫を巡って、農林水産省が最初の感染疑い例を確認した3週間前の3月下旬、同県家畜保健衛生所が、感染した水牛を診察しながら発生を見逃していたことがわかった。

 同省などによると、同県都農町で水牛を飼育する農家から、かかりつけの獣医師を通じ、県家畜保健衛生所に「水牛が発熱している。牛乳の出も悪い」という連絡があったのは3月31日。

 この日のうちに同衛生所の職員は立ち入り検査を実施し、4頭の水牛に発熱や下痢などの症状が出ているのを確認した。しかし、「普段の下痢」と判断して口蹄疫の可能性を疑うことなく、通常の風邪の検査をしただけで、同省にも報告しなかったという。

 この水牛農家から南東に600メートル離れた繁殖牛農家では4月9日、口の中がただれた牛が1頭見つかった。同衛生所はこの時も口蹄疫と見抜けず、20日に「最初の感染事例」として発表した。このため最初の水牛についても22日に血液の遺伝子検査を行った結果、ようやく23日に口蹄疫の感染疑いが判明したが、この時点で既に5例の感染(疑い含む)が発覚していた。口蹄疫の検査結果は通常、1日か2日で判明するため、もし3月末の段階で実施していれば4月初旬には拡散防止対策がとれたとみられる。
(2010年5月18日07時50分 読売新聞)

後づけで対策可能性を語ることはむなしく、今の段階で報道する記事としては配慮も情報も足りなすぎる。
獣医師はもちろん衛生所職員の責任も明示的に問うているわけではないと釈明されるかもしれないが、せめて初期症状における判断の困難さは注記するべきだろう。
原田 英男 on Twitter: "これは全くの論外ですね。1例目も6例目も初期の臨床症状では口蹄疫と判断するのは無理で獣医師には全く問題ないと専門家も言及。言われの無い非難です。RT @EnterFree @hideoharada 一部マスコミで口蹄疫を疑わなかった獣医が悪いとの論調があるので心配しています。"

これは全くの論外ですね。1例目も6例目も初期の臨床症状では口蹄疫と判断するのは無理で獣医師には全く問題ないと専門家も言及。言われの無い非難です。RT @EnterFree @hideoharada 一部マスコミで口蹄疫を疑わなかった獣医が悪いとの論調があるので心配しています。

原田 英男 on Twitter: "すみません。それを本件に関して公式発表できるのは疫学究明チームで、一般論で語れるのは獣医の御大。獣医師仲間の支持が必要。RT @miyazakifuzoman お忙しい1日だったようなので再掲。農水省として「1例目6例目の臨床症状で口蹄疫と判断するのは無理」と正式に発表…"

すみません。それを本件に関して公式発表できるのは疫学究明チームで、一般論で語れるのは獣医の御大。獣医師仲間の支持が必要。RT @miyazakifuzoman お忙しい1日だったようなので再掲。農水省として「1例目6例目の臨床症状で口蹄疫と判断するのは無理」と正式に発表…

口蹄疫の判断が困難であることを念頭におけば、むしろ裏づけともなりうる記事であるのだが……


しかしながら、対するインターネット上の反応に対しても、疑問がいくつかある。具体的には、民主党が責任逃れのために報道を操作しているかのような陰謀論だ。いくつか引用しよう。
はてなブックマーク - 「普段の下痢」…宮崎県が口蹄疫発生見逃し : 社会 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

sajiwo 口蹄疫, 社会, 民主党 ついに民主党が動き始めたな。先にしなきゃいけないことがあると思うけど。 2010/05/18
yamuyami 口蹄疫 知事が→宮崎県が→獣医が なんとか政府の責任から目をそらそうと必死な感じが透けて見える 2010/05/18

原因でなければ責任を問うことができないという発想、もしくは強い責任を問いたいがために原因を見いだそうとする発想は、陰謀論へ直結する道だ。
敵を万能かつ無能に設定した主張は、偽科学や歴史修正主義に繋がる陰謀論の特徴ということは、先日も指摘した*1。すでに様々な報道で批判されている民主党が、口蹄疫の報道のみ完璧に管理できるという発想もまた、無意味な陰謀論でしかない*2
証明しようがない陰謀論には何の意味もないどころか、現実の問題から目をそらす問題すらある。たとえば、小沢一郎氏は検察に起訴されない代わりに、捜査を可視化しようとする政策をとりやめたという陰謀論がある。しかし小沢氏を批判したいなら、陰謀論を用いる必要はないのだ。脱法行為を行っていたこと、捜査可視化を目指さないこと、それぞれ別個に批判に値するのだから。


一般論として、様々な立場にある多くの人々がかかわっている問題において、唯一の原因を見いだそうとしても、結論が出ることは不可能に近い。犯人探しの大勢が決まりそうであっても、細部にわけいることで容易に泥仕合へ持ち込むことができる。
その意味では、id:logic_master氏のコメントが当を得ていると感じる*3

logic_master 政治 民主がどうしたなどというくだらない犯人探しをする機運を作ればここまで話がさかのぼるのは当然の結果。はしゃいで政権たたきに利用とした連中は猛省すべき。しないだろうけど。 2010/05/18

他にも多数が指摘しているが、今現在に原因を問うという意味で「犯人探し」を意味がないだろう。インターネットで原因を探ろうとしても、現場で調査しているわけではない以上、容易に陰謀論へ結びつくだけだ。
そもそも今回の口蹄疫は今も対処を優先している最中であり、現場の専門家による調査が行われるのは後日の予定だ。今は現場にこそ最も多くの情報や専門家が集中しており、直接の利害関係者も多数いる。待てば信頼できる情報が出てくるだろう。
つまるところ、専門家の調査を媒介するべき立場の報道機関だけでなく、匿名を土台としたインターネットには、現在あやふやな情報しか流れていないと考えるべきだ。もっといえば、原田氏も慎重にくりかえしデマを指摘しているように、インターネットで現在流れている口蹄疫の原因説は、ほとんどデマであると見なしてかまわないだろう。


原則で考えるならば、あやふやな情報を拡散する必要も、錯綜する情報に惑わされる必要もない。原因でなくても、最も大きな責任を負うべき存在に最も大きな責任を問えばいいだけのこと。つまり、とりあえず現在の政権与党が責任をとるべきという理路で充分ではないだろうか。
また、仮に現政権が完璧な対処を行っていたとしても、国民が何も求めることができないわけではない。たとえ原因が困窮者にある場合であっても、そうした困窮者一人一人を救うことこそが国家の仕事であるはずだからだ。感染症によって大打撃を受けるような職種に就いた者の自己責任という愚論など、今では賛同の声を集められないと私は信じる。

*1:http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20100511/1273588315

*2:原田氏も指摘するように、無関心が作り上げた無作為の共犯関係といったところが妥当だと思う。そもそも重要度に合わせた報道など、極めて珍しいことではないだろうか。自民党政権時代の自民党批判者がいだいていた気持ちが今、ありとあらゆる立場に共有されようとしている。これは逆説的だが「政権交代」の成果といえるだろう。

*3:ただし、結論として後述することとも重なるが、何らかの問題が起きた時に現政権は叩かれることで国民感情を慰撫すべき立場でもある、という考えもないではない。国民の側が克服し、叩く以外の道を探るべきではあると思うが。