法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『エレメントハンターELEMENTHUNTERS』MISSION.38 破滅の情報エネルギー/MISSION.39 未来へのクオリア

MISSION.38は最終の直前回だけあって、新規に荘厳なBGMが投入。まさかこのアニメでコーラスつき賛美歌風の音楽が流れるとは思わなかった。
正直にいえば前回放送の11次元イメージは陳腐で、今回冒頭でも同様のイメージが続いていたので、このままだとつらいと思っていたが、主人公達の認識に合わせて擬似的な日常世界へ変貌したので助かった*1。おまけに擬似日常世界で戦闘が始まり、設定上でも最初で最後の怪獣映画風な演出が楽しめた。構図は巨大感を出そうとがんばっているし、アクション作画も悪くない。


MISSION.39では、意図せず全ての原因となっていたカー博士のドラマが描かれる。SF設定によって様々な年齢の姿が登場し、カー博士が過ちの清算にかけた年月を説得力ある映像として示す。同時に、以前にアリーの体を借りたいとカー博士がいった台詞も回収された。
全てのドラマを最後にカー博士一人で持っていってしまったという問題はあるが、次世代へ託された意思という、やや唐突ながら「言葉を大切に」というテーマを提示したことも悪くなかった*2
さらに、ネガアース事件を通して得られた技術が提示されることで、以降の人間関係だけでなく世界全体も変化していくだろうことを暗示したのも、本格SFらしいスケールを感じさせた。そして、この技術の使用法を論じる描写は、同時に主人公達のドラマを裏打ちする。
結末で描かれた後日談も各キャラクターの魅力を伝えながら成長も示す。キアラとロドニーが初々しくもずれたデートをしたり、芸能界で生きるハンナとキアラ母が同じ作品で活躍したり、アリーがユノのことを思い続ける姿があったり、公式には存在を認められなかったレン達が前向きな姿勢を見せたり、物語の終了を確認しつつ後味悪くならない。個人的には、ユノの登場したラストカットはサービス過多と思うが、充分に許容できるし、むしろ補完を楽しもうという気になった。


最終回を迎えたので、総評も書いておこう。
前評判通り、かつてNHK教育番組『天才てれびくん』内で放映された実写とアニメを組み合わせたSFドラマ『恐竜惑星』『ジーンダイバー』『救命戦士ナノセイバー』三部作を思い出させる作品だった。立ち上がりのもたつきやアニメーションの弱さといった短所から、細部で光るSF考証や序盤から想像もできないスケールの結末といった長所まで、良くも悪くも似ている。
アニメーションとしては、先述したように感心できない部分が多い。経験の少ない韓国が作画作業を担当し、長期放送ながらキャラクター設定から外れない安定ぶりは良かったものの、日常的な動作に生気を感じられないことがほとんどだった。一部のアクション作画で巧いアニメーターがいた程度か。絵コンテや演出は日本が担当することが多かったものの、脚本をそのまま絵にするだけで、映像としての間や、隠喩を用いた演出がほとんどなかった。ある意味では、作画よりアニメとしての印象を低くする原因だったかもしれない。ただ、キャラクターやメカニックのデザインは悪くなく、視聴している側が補いながら見ることができたのは良かった。現実味の確保が難しい遠未来社会設定も、文明が縮小し文化も制限されているSF設定で巧く逃げていた。
脚本は、当初こそ主人公に対する説明不足や、場面ごとにリアリティレベルが上下する描写が多くて不安を感じさせた。しかし最終的には39話にわたる長いドラマを、全ての複線を回収しつつきっちりまとめてくれた。具体的にドラマとして素直にのめりこめるようになったのは、コロニー側だったアリーが地球側へ移った前後くらいから。各エレメントハンターの個性を出す描写を一通り終わらせたため、大人達の隠された内面を提示できる余裕が生まれ、葛藤も深みもあるドラマが展開された。以降は物語進行が停滞することもあったが、おおむねキャラクターの魅力ある描写と、次々に提示される新設定で毎回のように楽しませてくれた。

*1:予告映像で何となく予想はしていたが。

*2:見ようによっては、『水は答えを知っている』という偽科学などにたよらずとも、真面目に作ればSFつまりサイエンスフィクションで言葉の大切さを訴えられるのだというSF作家の矜持すら感じられる。