法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ハートキャッチプリキュア!』第1話 私、変わります!変わってみせます!!

初回はシリーズディレクターの長峯達也、脚本はシリーズ構成の山田隆司が栗山緑の名義で、それぞれ担当。作画監督はキャラクターデザインの馬越嘉彦で、原画には佐藤雅将や西井輝美や馬場充子といった馬越回おなじみのメンバーから、高橋任治や東美帆といった東映作画監督級、さらに石野聡らも参加。
国内トップクラスのアニメーターが集った『ガイキングLOD』で複数回で参加していたものの、基本的に東映となじみが薄い石野聡が参加していて不思議だったが、調べてみると『Yes! プリキュア5』第20話の原画で参加していたようだ。
『Yes! プリキュア5』第20話 プリキュア5歌手デビュー!? - 法華狼の日記
当時の感想では言及していなかったが、読み返してみると馬越嘉彦らの参加および長峯達也の演出という点でも共通している。この回で演出家との繋がりができたということか、なるほど。


まず、作画は『プリキュア』シリーズの初回としては最高といっていいだろう。
シリーズ作品では前作最終回にリソースをとられ、しかもリニューアルするとあってはキャラクターデザイナーの負担が大きく本編作画への参加を阻害するものだが、そこは馬越作画監督。手の早さと巧さに定評があり、原画も一線級をそろえたおかげで、全般に作画修正を行き届かせつつ、リミテッドアニメらしいデフォルメされた動きから、線質まで変えた表情まで楽しめる。
馬越デザインの特長も出ている。アバンタイトルの祖母*1や、終盤で敵幹部が来海えりかへ迫るカットがわかりやすい。顔を少しかたむけると光源を意識して鼻の影が動く。その通った鼻梁を上に延長すると、きちんと眉毛へ繋がる。つまり眼窩のくぼみを骨格として強く意識し、デフォルメされたデザインでも立体をとっているわけだ*2


長峯演出も、山内重保監督*3の薫陶を受けているだけあって、見所が多い。特にアバンタイトル戦の、スローモーな顔面のクローズアップと、高速で動く極端なロングショットをくりかえすカット割りは、いかにも山内の影響を感じさせる。他にも各所で様々な見所が紹介されているが、個人的には扉にへだてられた主人公2人を、扉ガラス窓の反射を利用してワンカットに収めた手法が、古典的な手法ながらも印象深かった。
そして山内演出の延長として興味深かったのが、Aパートで多用された、近景キャラクターの頭頂部をなめながら遠景キャラクターを映す構図だ。もともと遠景と近景を書割のようにレイアウトして奥行きを表現するのが山内演出の特色だが、もう一つ『キャシャーンSins』でビスタサイズに対応して試みられた方法論がある。
WEBアニメスタイル | 『キャシャーンSins』を戦い終えて……山内重保監督・馬越嘉彦インタビュー(3)作監修正による山内タッチの徹底
つまりビスタサイズの構図をどう活かすかという問いに対し、キャラクターに寄るという山内独自の回答に加え、引いたキャラクターで背景まで見せるという定石的な回答を、長峯達也は山内レイアウトで組み合わせたわけだ。同様の構図をスタンダードサイズで作ろうと思えば、近景キャラクターの後頭部が画面を占拠してしまうか、画面上部に空白ができてしまうか、近景と遠景の距離がとれずに奥行きが表現できなくなるだろう。
16:9のビスタサイズを効果的に用いる方法論として、かなり応用が効きそうに思える。キャラクターが縦に並ぶ、つまり中央に入ってくるので、アナログ放送でサイドカットされたとしても、情報量が大きく落ちないという利点もあるだろう*4


脚本も見せたいものが明確で、情報量が多く、かつ細部の説明不足におちいってもいない。
視点人物である赤の子が後半でいきなりイメージチェンジさせられるとか、青の子も表面の騒々しさが姉への劣等感によるものだとか……主人公2人の出会いと、それぞれのキャラクター性を前半でコミカルに見せつつ、それぞれの重たい内面もにおわせ、後半で一気に衝突と変化まで描ききる。
特に、青の子の複雑さは面白い。背が赤の子より低いとか、Aパート後半で内面をにおわせる表情とか、物語が映像として良く活かされている。後半で内面が「デザトリアン」として表出する展開も、設定説明と内面描写、そしてそれを赤の子が認識するという3要素を手早く手堅くまとめていて、地味に巧かった。


OPEDの演出や歌唱力も文句なし。全体的に見て、ほぼ完璧な初回だった。
無理やり文句をつけるなら、主人公が変身したところで次回に続いたことくらいかな。販促アニメとしては、主人公が変身して相応に活躍を印象付けるところまで初回で描くべき、という意見はありうる。あとは、デフォルメされたデザインだったためか、EDの3DCGモデリングが人形っぽかったことが気になったくらい。

*1:年齢を重ねて肉がたるみ、顔の輪郭がオニギリ型になるあたりも、シワだけで老いを表現する安易なデザインとは一線をかくしている。

*2:もちろん、立体を意識しないデザインが必ず悪いと主張するわけではない。

*3:最新監督作品の『キャシャーンSins』では、長峯達也が峰達也名義で参加していた。

*4:ただし『ハートキャッチプリキュア!』はアナログ地上波でも16:9の構図で放映されている。つまり今作によって、ニチアサキッズタイムの全作品が、16:9の構図のままアナログ環境でも見られるようになった。