法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

劇場版クラナドを見よう企画に関連して、劇場版AIRとの比較を少し

「劇場版クラナドをみんなでみよう」という企画 - karimikarimi
劇場版AIR』の方が、実況は盛り上がると思う。真面目な話、完成度が高い作品より、欠点も長所も語れる作品の方が評価はしやすい。個人的にも、試行錯誤ゆえの熱を感じたのは『劇場版AIR』だった。
しかし『劇場版AIR』は上映当時に衝撃と困惑をもって迎えられたこともあり、良くも悪くも相応に語られてきた。あえて『劇場版クラナド』へ光を当てようという企画は納得できる。
おそらく参加する余裕はないので、思ったことを少しだけメモしておく。


劇場版AIR』は、短い時間の出来事を濃密に描いている。対して『劇場版クラナド』は、長い時間を圧縮して描くことで濃密さを得ている。そうして、緩やかにすぎていく時間を感じさせながら、実際には体感と比べて短い上映時間となっている。
mattune氏が言及している「詰め込み」*1から、さらに一ひねりした奇妙な感覚。
これは、時系列*2を大幅に前後することで獲得できた。『劇場版AIR』でも、物語の流れと合っていないシークエンスを挿入するため結末で回想を用いていたが*3、ほぼ時系列通りに進行してきた。これほど時系列を大幅に前後したアニメで、今思い出せるのはOVAるろうに剣心』TVSP『KENJIの春』くらいだが、作品で描く時間を圧縮する手法としては定石ではある。
しかし時系列を入れ替えるだけでは時間を圧縮する効果しかない。ゆっくりとした時の流れを描けるのは、他の出崎演出作品と比べてカットごとの作画芝居を増やしているためだろう。作画リソースがあからさまに不足していた『劇場版AIR』はともかく、OVAブラック・ジャック』等でも、主人公が扉を開閉して廊下に出たりといった普通の芝居を長々と描くことは滅多にない。
もちろんTVアニメでなら時間の流れを描くため長尺芝居を演出することも多いし、それを再編集した映画『家なき子』も同様だ。異なるのは、映像と違う物語が進行しているところ。『劇場版クラナド』は先述したように主人公の主観的な時間の流れさえ前後しているわけだが、それをさらに推し進めて、映像で描かれている主人公の言動そのものではなく、その言動の結果として起きた後の出来事を説明するダイアローグが多い*4


話は変わるが、出崎リスペクトの演出家は、出崎を意識して真似るゆえに天然な表現を再現できないし、映像の全てを制御しようとして制作体制が破綻する*5ことまでは真似ずにブレーキをかける。結果として似ている部分があるだけに差違も目立つ。
ここで、人間関係や作品史から見て全く無関係なのに、出崎演出に最も似ている一つが山内重保演出という自論がある。撮影に力を込めること以外に一見して似ている手法は用いないし、ドラマの描き方もかなり違うが、だからこそ演出の本質が似ていると感じることが多い。
そして『劇場版クラナド』では、少なくともアクション演出は似ていると感じさせる場面がある。具体的には、春原がサッカー部を辞める原因となった乱闘だ。まず打撃の痛みや衝撃を描くことを目的とし、誰が誰をどのような位置関係からどう攻撃しているかを説明しないカットを重ねる。そして重力を無視したような跳躍*6、続いての回し蹴りは作画の手間がかかるわりに興奮の薄い説明的なロングショット。観客に体感させることを目的としたカットと出来事を説明するカットを分業する姿勢が、はっきりしている。カットを積み重ねて作中で起きている出来事を描き上げていく宮崎駿監督のような、いかにもアニメーターらしいアクション演出が主流な現在、かなり特異的ではないかと思うのだ*7

*1:http://d.hatena.ne.jp/mattune/20091224/1261647423

*2:ここでは主人公が情報を得る順番という意味であり、客観的な時系列にそっているわけでは必ずしもない。

*3:原作者がただ一つ要求したのがこのシークエンスであり、本来はOVAブラック・ジャック』「しずむ女」と対になる、救済の物語となる予定だった。

*4:ちなみに、OVAリーンの翼』一巻では逆に、映像で描かれていることの発端を説明するダイアローグがあり、印象に残った。

*5:白鯨伝説』では制作会社が倒産する一因になったともいわれているはず。

*6:映像的な見映えを優先して重力を無視する跳躍は山内演出でも多い。たとえば「WEBアニメスタイル」のインタビューで、キャシャーンが空中を水平移動しているようなカットが、ただ跳躍していただけということが語られていた。しかしここで春原が跳躍する俯瞰カットは、デフォルメされた身体の伸縮が作画されていて、同種の出崎跳躍では比較的に説得性がある。

*7:もちろんアップとロングの使い分けは多くのアクション演出で普遍的に行われているが、完全に分業していることは滅多にない。