念のため、あまり映画を熱心に見ない者の感想。
たとえば『13日の金曜日』『悪魔のいけにえ』『サスペリア』といった有名どころすら見てなく*1、見たはずの『エクソシスト』『オーメン』『ラストサマー』なども忘却の彼方だが、まだまだ夏の夜は暑いので印象に残っているものを書いてみた。
どれも遠い記憶にたよっているので、今見ると異なる感想を持つだろうし、内容説明部分に明らかな誤りがあるかもしれない。そもそも正式なタイトルすら調べ直していないし、必ずしも怖さを基準にしていないので、参考にすらならない。しかも思いついた順番に並べているので、ところどころ時代が逆転していたり、監督やジャンルが近しい映画が並んでいる。
『吸血鬼ノスフェラトゥ』
特殊メイクが進化する前の作品だからこそ吸血鬼の造型に凄みを感じ、とてつもない遅いテンポで淡々と描かれるからこその恐怖もある。
『フランケンシュタイン』
最も有名なユニバーサル版は、湖畔での少女との出会いがひたすら空しく、結末で怪物を遠巻きに追い回す人間の方が恐い。
『遊星よりの物体X』
案外と古典的ホラーとして成り立っているが、最後の政治性丸出しメッセージはとってつけた感がひどい。
『禁断の惑星』
古典SFとして面白いが、ホラーとしてはイドの怪物が姿を現すアニメーションがデフォルメききすぎでコミカルに感じて怖くなかった。
『ハウリング』
今の目で見ると変身シーンのカットは割りすぎているし、特殊メイクも着ぐるみっぽいし、テンポもゆるい。
『鳥』
動物パニック映画だが恐怖描写以外を徹底的に削り込み、逆に恐怖を超えた自然への畏敬をも感じさせ、御都合主義なラストすら神の気まぐれと思わせる。
『激突!』
何も考える必要なく楽しかった。
『シャイニング』
とかく映像は美しいものの、幽霊屋敷の恐怖とサイコホラーが分離していて、結果的にどちらの面から見ても怖さが薄れている。
『ストーカー』
睡眠導入剤として使えるとよくいわれるが、SFサスペンスホラーとして見ると何が起こるかわからない緊張感に満ち、究極的に美しい風景が恐ろしいことにも気づかされる。
『エイリアン』
SFで翻案したゴシックホラーで、エイリアンが登場して追いつめられていく後半より、巨大宇宙人という謎が放り出される前半の雰囲気が好み。
『エイリアン3』
ゴシックホラーぶりは増したが、やってることが原始的な追いかけっこなのでSFである意味が感じられない。
『宇宙戦争』
特撮が素晴らしいし、なかなか姿を現さない宇宙人の恐怖はリメイクに優っている。
『スペースサタン』
クソ映画として知られているが、金属を剥き出しにしたロボットデザインは悪くない。
『狼の紋章』
変身シーンは『ハウリング』よりずっとグロテスクで面白かったし、幻想的な物語と映像が狼人間のリアリティレベルと一致していて安っぽく感じない。
『スクリーム』
真面目に恐かったのは冒頭だけで、中盤からパロディばかりだし、真相も卑怯。
『死霊のはらわた』
うごめく魔物に、立体アニメならではな動きの気持ち悪さを感じつつ、その物量そのものでアニメオタクとして楽しめだ。
『ターミネーター』
スラッシャー映画の基本に忠実で、描写の密度も濃いし、タイムスリップSFの楽しみも充分。
『ターミネーター2』
シュワルツネガーが味方になると、スラッシャー映画の構造こそ前作のままでも、ちっともホラーじゃなくなるのな。
『プレデター』
特殊部隊を狩らせることで透明異星人の脅威を強調……って、だからシュワルツネガーが主人公だとピンチがピンチとして機能しないってばよ!
『フライ2』
ひたすらグロかった。
『裸のランチ』
原作は未読だが、映画からは執筆活動に疲れた作家の現実逃避としか感じられなかった。
『ルームメイト』
期待したほど不条理な怖さではなく、普通のサイコサスペンスだった。
『ファーゴ』
実話を基にしたというウリを聞いていたので、笑いと紙一重な描写で拡大していく狂気のおぞましさに震えた。
『ドリームキャッチャー』
美しく奇想に満ちた予告映像と、映画本編のギャップが、ある意味で空前絶後のどんでん返し。
『セブン』
キリスト教のうんたらかんたらで重厚なふりをしつつ、後味悪い結末へ突き進むシンプルなプロットが娯楽作品としてよくできていた。
『乙女の祈り』
チープな子供のイメージを、あえて出来が良い特撮で再現するという技巧が冴える。
『ディープブルー』
今どき鮫とか。
『CUBE』
数字の謎解きを天才にやらせる必要はなかったと思うが、低予算で作り上げた美しく閉塞された映像には拍手。
『アンブレイカブル』
雰囲気ある前半から想像もつかない肩透かしのオチだが、ぎりぎりサイコホラーとして見ることもできる。
『ヴィレッジ』
ここまでバレバレで古典的な真相を、大金を使って重厚な演出で映像化してしまった監督が怖かった。
『SAW』
真面目に考えれば不自然な真相なのに、映像の馬鹿馬鹿しいインパクトが凄すぎて許せた。
『バイオハザード』
先行ホラー映画の演出が楽しめるというパクリ宣言な映画宣伝のため、原作に繋げるオチまでパクリとしか感じられなかったが、雑多な要素が意外とまとまっていて楽しめた。
『ドーン・オブ・ザ・デッド』
終盤でわざわざギンギラギンにさりげなく逃げ出す意味はよくわからんが、中盤の出口なき静謐さと、エンドクレジットの洒落た作りは好み。
『ハリー・ポッター アズカバンの囚人』
原作は未読だが、意外と緻密な時間移動に驚いた。
『猿の惑星 THE PLANET OF APES』
しょうもなすぎるオチでテーマ性が感じられず、あまり原典に対する愛情も感じられなかった。
『宇宙戦争』
唐突に理不尽な状況に放りこまれる主人公、世界を蹂躪する巨大物体、絶叫する少女、わざわざ死にに行く若者、静謐なカタストロフ、狂気にむしばまれる中年、閉所での長々としたかくれんぼ、全てがホラー映画の文脈にあると理解すれば傑作SFとして楽しめる。
次は邦画。洋画ホラーは字幕でも吹き替えでも迫真性が薄れる感覚があり、その点では自国ホラーに点が甘い。
『蜘蛛巣城』
単純な海外模倣ではなく日本ならではの映像で作り上げたゴシックホラーで、森閑の天気雨、狂気に染まる妻、鳥で示される兆、逃れようない矢ぶすま、うごめく森、全ての映像が鮮烈な印象を残す……が、魔女の合成だけは薄っぺらい。
『夢』
いくら巨匠でも他人の夢というものは面白くないのだが、オムニバスなので苦痛を感じるほどの長さではないし、緻密に映像化された悪夢の酩酊感は悪くない。
『ラドン』
設定で生物としての面を強調しているおかげで、日本の怪獣映画としては珍しく生っぽい恐怖があった。
『フランケンシュタイン対地底怪獣バラゴン』
序盤では第二次世界大戦を背景に持つ陰謀劇の脅威もあるし、等身大より少し大きいサイズのおかげで海外のフランケンシュタイン物にない種類の怖さもある。
『マタンゴ』
SF的な謎解きと並行して夢うつつな描写が増え、その違和感が恐怖を盛り上げるのだが、結末から逆算した見事な構成と後で気づかされた。
『吸血鬼ゴケミドロ』
チープさゆえの迫力とかいっても似たような特撮をくりかえされれば飽きるが、人間関係のドロドロっぷりと、ラストの投げっぱなしは気持ちいい。
『吸血髑髏船』
イメージにすぎなかった骸骨とかはコケオドシにすぎたが、意外と理に落ちるスリラーだった。
『鉄男 TETSUO』
怪物同士が戦っていくうちに友情が芽生え、ついにはブイブイいわせるラストが凄い。
『ヒルコ 妖怪ハンター』
中高生向けに恐怖と恋愛と成長を増した"学校の怪談"で、原作読者としては映画版金田一状態の妖怪ハンターに違和感あるが、手作り感あふれる映像から爽快感ある結末まで間断することない傑作。
『双生児』
どんでん返しがくりかえされるサスペンスとして楽しめたが、貧民窟の描写で監督が趣味を出しすぎ。
『ゼイラム』
個々の精度は低くても様々な特撮技法を駆使し、不死身の怪物を和風SF風味で完成させた。
『女優霊』
長回し写真だけ恐かった。
『BUGS』
フナムシが不気味なのは小さく群れているからであって、巨大化すると他の虫と差別化できない。
『地獄の警備員』
元相撲取りというサイコキラーの設定とか、恐がらせたいのか笑わせたいのかわからないところ多々あるが、まあまあ恐い。
『CURE』
死体の造型だけは今一つだが、広い美術セットの長回しで長台詞をもたせ、そっけない殺人描写のリアリティもある。
『カリスマ』
植物系ホラーなようなそうでないような黒沢清演出に飽きてきたような。
『回路』
実体があるからこそ対処できない恐怖を増す幽霊演出は良いのに、カタストロフはCG合成全般が薄っぺらいので迫真性はないし、この人物設定で長台詞は不自然。
『顔』
いってみれば中年女性版『N・H・Kへようこそ!』だが、より陰惨で後戻りできない状況はホラー以外の何ものでもない。
『帝都物語』
金がかかってそうなところと安っぽいところの落差がひどくて、加藤の存在感を除いて全体的には悲しい完成度。
『帝都大戦』
極端に出来が上下しないので、多くを期待しなければ前作よりは安定して楽しめる。
『ガメラ3 邪神<イリス>覚醒』
怪獣の圧倒的な恐怖感こそトップクラスだが、半端な伝奇描写はリアリティを薄めるだけでしかなかった。
『父と暮らせば』
原爆投下後の広島を舞台にしつつも、甘ったるい感動ゴーストストーリーとばかり思っていたら、結末で示された真相に背筋が凍った。
『黄泉がえり』
ベタなゴーストストーリーだが、伏線も辻褄もあっていて、泣かせが鼻につく以外は娯楽性が高い。
『ケイゾク 劇場版』
ミステリとしてベタな大トリックが映像化されたのは楽しかったが、これみよがしにカオス化していく後半はしょうもない。
『白痴』
マンガ神の息子による架空日本の異様なファンタジーで、温い部分もあるが絢爛豪華な映像には破綻がなく上出来。
『トイレの花子さん』
人形が出る版を見たが、全体的に安っぽい。
『催眠』
先行ホラー作品の要素がよくまとまっていて、ジャニーズの芸達者ぶりと菅野の不気味さが土台を支えている。
『模倣犯』
悪い意味で最後の生首CGが忘れられないが、出口のない何が解決かもわからない混沌ぶりはけっこう良かった。
『花田少年史 幽霊と秘密のトンネル』
全体的に特撮の使いどころがよくわかっていると思っていたら、その嵐のCGはない。
『妖怪大戦争』
あえてダイナメーションのようなモーションで動くCGが少し良かった。
『エコエコアザラク』
閉鎖環境の校舎を舞台に、女子が大量に登場してエログロというあざとい作りなのに、無理な背伸びをせず、それでいてスケール感もある。
『エコエコアザラク2』
最後のCGばかり力を入れて、今になって見ると全てが中途半端。
『稀人』
秘境物と現代日本ホラーがわりあいきちんと接合されていて、部分的に怖がらせつつ安らげる。
『呪怨 劇場版』
質より量で恐がらせてくれるサービス精神は良く、一部は今でも思い出すほど恐いが、女子高生が襲ってくる場面はさすがにギャグ(もう少し考えろよと思いながらDVD特典映像を見たら、編集前にはもっと笑える描写が存在していて、監督が自分でツッコミ……)。
『着信アリ』
どんでん返しは良かったが、モチーフのはずの携帯電話が全く印象に残らない。
『グロヅカ』
作中自主製作映画の映像は良い雰囲気だが、あらゆる意味でテンプレート通りの本編には溜め息。
『感染』
シャレたレーベルで出しているのに、古臭くコケオドシな映像が逆に凄い。
『ゲゲゲの鬼太郎 千年呪い歌』
前作に続いてしょうもないカメオ企画映画だが、ガシャドクロの位置づけには感心した。
最後はアニメ映画。絵としてしかアニメを見ることができない人には、全く恐ろしさを感じないかもしれない。
実写よりアニメを好んで見ているが、映画という縛り*2なので思い出せた作品が少なかった。『吸血姫美夕』や『鬼公子炎魔』といった名作佳作ホラーはOVAで数多あるのだが。
『劇場版 ブラック・ジャック』
過剰な出崎演出と緻密な杉野キャラがアニメらしからぬ生っぽさを感じさせる、医療サスペンスの傑作。
『パーフェクトブルー』
一見すると実写でも作れそうなサイコホラーだが、計算しつくされた画面構成や、終盤の演出でリアリティが担保できるのはアニメならでは。
『Blood the last vampire』
トップクラスのアニメーターを集め、当時としては3DCGにも力を入れて、わざわざ安っぽいB級ホラー映画を再現した珍作。
『映画ONEPIECE オマツリ男爵と秘密の島』
演出家の私情に満ちたホラーだろ、これは。
『『劇場版xxxHOLiC 真夏ノ夜ノ夢』』
ストーリーは幽霊屋敷物としてベタだが、プロダクションIGらしい潤沢な作画リソースを活かしつつも背景美術の風格を優先した監督判断が恐怖演出に効果的だった。
他に洋画では『デリカテッセン』『ロスト・チルドレン』『エイリアン4』、アニメでは『イノセンス』といったホラーに区分けされるような作品も見ているが、上記の映画と比べてさえホラーを見ている気分になれなかったため外した。
一応、素直に薦める一本を選ぶなら『ヒルコ 妖怪ハンター』かな。一人で見ても多人数で見ても、そこそこ盛り上がりつつ、後味が悪くない。
ホラーと思わずに視聴した『父と暮らせば』『顔』は意外な拾い物。ホラーとしての楽しみは感じられないかもしれないが、一見の価値はあると思う。