法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

政治色を拒否する姿勢も、一つの政治姿勢だよ

ところで、7月10日の『ドラえもん』に登場した秘密道具「辞ニンジン」は、ネットのところどころで政治色が強いという反発があった。
たとえば2ちゃんねる界隈では下記のようなコピペが出回っている。関連する書き込みをまとめているブログから引用しよう。
丁寧語とか、礼儀正しく書いてみる日記2:7/12 優しいドラえもんは夢を失って プロパガンダアニメ

356 名前:日出づる処の名無し[sage] 投稿日:2009/07/10(金) 20:05:10 id:jvk/YknR
>>339
テレビでスーツのオジサンが記者会見しているシーンからスタート
記者「いつまで大臣の椅子にしがみつくつもりですか」
オジサン「今日限りで辞任します(礼)」


野比家の居間
ママ「また?無責任ねぇ〜」


で、ドラも何か言ってたけど忘れた


ひみつ道具は「ジニンジン」

補足すると、TVを見ていたドラえもんが「また大臣が辞任だって」と呆れ半分に冷や汗をたらし、それをママが受けて「また?無責任ねぇ〜」とつぶやく。ママはアイロンをかけながら顔も上げずにつぶやいており、さほど深い意味をこめていない日常風景だった。


個人の日記でも似たような感想が見られた。
ECHIKO DIALY

●今週のドラえもん
あ〜あ、やっちゃったよ。
娯楽に政治と宗教を持ち込むのはご法度だというのに。本当にヤボだねぇ
特に子供向けの場合は、洗脳にもなりかねんし。こういうのやめてくんないかな。
今回の秘密道具、「ジニンジン」だって。もちろん原作にはない。


まあ、テレ朝系はゴーオンジャーでも前科があるらしいですが。
(今回いろいろ調べて知りました。ゴーオン途中で見るの辞めたもんで)
第47話「内閣カイゾウ」 第48話「正義カイサン」 …て、おいおい(汗


なんかもう、うんざりですよ。そういう偏向報道見るの嫌だから娯楽作品に現実逃避してるのになぁ('A`)

さて、根本的な話をいえば、エントリタイトルに書いた通り。政治に言及しない態度を表明することは、その分だけ政権与党に対して白紙委任状を与えていることと同じだ。
そもそも、大臣を辞任できるのは大臣になれたからであり、批判されたくなければ政権与党にくみしなければいい。今回の『ドラえもん』は、権力を行使する者は相応する責任が求められるという、自己責任を声高に叫ぶような人が本来好むはずの論理で風刺しているだけだ。なぜ偏向報道などとからめて反発するのか、不思議でならない。
もちろん、政治色を感覚的に嫌うこと自体は好みの問題でもある。しかし、作品に明示されている描写を肯定であれ否定であれ深く読みこむことなく、ただ拒絶するだけではもったいないのではないだろうか。


なお、『ドラえもん』は原作からして「Yロウ」「ポータブル国会」といった秘密道具が登場する。秘密道具というガジェットを導入して賄賂を象徴的に描いた前者、立法権を濫用する者の末路を描いた後者、それぞれ現実の政治に対する毒は、秘密道具の説明描写でしかなかった「辞ニンジン」の比ではない。
具体的にいうと、「Yロウ」を受け取ったジャイアンは、皆から追求されて家に閉じこもり、「知らん! 記おくにない! わすれた!」と叫ぶ*1。これは田中角栄元首相が収賄事件において発した言葉を想定していることは明らかだ。
ちなみに、最近にアニメ化された「ようこそ、地球の中心へ」では、地底人から税金をしぼりとろうとする政治家が登場する。そこまでは原作通りだが、アニメでは、原作と違ってジャイアンスネ夫を悪役にせず、ジャーナリストの否定的な側面を強調していた*2テレビ朝日が主導して『ドラえもん』を改変しているという陰謀論にしたがえば、テレビ朝日は正しく自己批判的な態度を取れているということになるだろう。

*1:単行本第11巻「Yロウ作戦」118頁。ジャイアンへYロウを渡したのび太がママにたのんで「のび太は頭が痛くて、おあいできないそうです。」と答えさせ、仮病を使う描写も面白い。

*2:http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20090508/1242072429