法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『衝撃の逆転裁判ドラマ サマヨイザクラ〜あなたに死刑判決は下せるか』

フジテレビ系列で裁判員制度開始に合わせて作られている2時間ドラマ「裁判員制度ドラマスペシャル」シリーズ。原作はマンガらしいが未読。


法廷ミステリとしては悪くないが、裁判員制度を啓蒙する意図で作ったのであれば現実感がない。
まず、多くの人々が過去の因縁で結びつけられていて、御都合主義な感がいなめない。事件と関わりを持つ者は選らばれないという前提を示した上で、裁判に参加する人数が増えれば想定されない関わりが出てくるという見せ方にするべき*1
そもそも、マンガとしてなら楽しめるかもしれない戯画された登場人物を、そのままドラマで描くのは無理があったのかもしれない。
さらに、誰も彼も美少女アクションアニメ「キョウカたん」に夢中。主人公が最後に気づいたことなど、ミステリとしてなら伏線も張られていて許容範囲内だが、リアルな法廷物としては偶然がすぎる。マンガであれば、美少女アクションアニメのファンが好奇の目にさらされるという展開が、ある種の象徴として機能していたのかもしれないが、ドラマでは配役の関係もあって同系列局ドラマ『電車男』の自己パロディという感があった。


裁判所の描写も違和感が多い。
「集団の悪」と「個人の悪」という言葉を使って刑事裁判の争点にするなんて、裁判員制度ならではの感情に訴えかける法廷戦術といえるかもしれないが、それで弁護が成り立つものだろうか。
判決文が読み上げられる最中に、それを裁判員がさえぎって新情報を出すというのも、誇張がすぎると感じた。集中審理という制度の拙速さを象徴する描写ではあるが……


全体的には、裁判員制度の仕組みはもちろん、模擬裁判で指摘された問題点までフォローされており、いくつかの誇張された描写も裁判員制度や刑事裁判の特徴に関わっていると評価できる。
しかし、裁判の結果が必ずしも裁判員制度とは関係なく、どちらかといえば冤罪が発生する過程に重点が置かれている。結果として物語全体の主題も冤罪問題が中心となり、その意味では共同体から疎外されて冤罪をかけられた人々の姿がよくとらえられているとは思ったが、裁判員制度の理解や啓蒙とは関係が薄い内容になってしまったと感じる。

*1:この点、ドラマ『相棒』で裁判員制度を扱った2時間SPは、よくできていた。