法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『佐武と市捕物控』第14話 荒野の魔犬シャマイクル/第15話 大江戸番外地/第16話 捕物無情/第20話 うらみ

第14話は、作画枚数800枚という伝説的な回。しかし作画節約が自然すぎて、逆に期待外れだった。もっと前衛的な映像かと思っていたのだ。雪降る画面、背景のみ、止め絵の回想と、オーソドックスな作画節約方法を組み合わせて、静かな映像を作り上げていて、素直に見れば良い演出なのだが。
どちらかというと、アイヌという少数民族を扱いつつ、その侵略された民族内部の裏切りや、飼い主のアイヌ人が行ったあることで傷つけられ盲目になった犬シャマイクル*1といった複雑な構造を一本の娯楽作品としてまとめあげているのが印象的。若き日の市が名を上げようとしながら成長する番外編として楽しめた*2


第15話は、佐武が強盗容疑で牢に入る話。特に良い出来ではないが、牢入りの真相を途中まで完全に隠しきっている作りが好感持てた*3


第16話は、尾浜御殿へ忍び込んで灯台へ立てこもった甲賀忍者の話。忍者の格好こそ古典的な講談のそれだが、幕府へたてつき正義をなそうとする物語に、社会派らしいおもむきがある。白土三平の世界。
重要書類*4を盗んで灯台にたてこもる序盤から、灯台と人質という二重の障害*5、理想的な忍者と利益追求忍者の仲間割れ、人質と忍者の交流、幕府の手先たる自身に悩む主人公、戦いのはてにたどりつく結末……教科書的な社会派サスペンスを完璧に時代劇へ移植しており、高い娯楽性と社会派テーマが両立している。
作画面では、最後に舞う紙切れが、演出上の必然性もあいまって、強く印象に残った。


第20話は、盲目の原因たる馬にうなされる市の様子から、どうやらこれが『WEBアニメスタイル』で原口氏が紹介した作画マニア向けの回らしい。
WEBアニメスタイル_特別企画

それから、裏を裏を採ってないんだけど、林政行が演出の回は、恐らくジャガードがやってて、荒木(伸吾)さんも描いていると思うんだけど、結構、凄い作画があるよ。

市がさ、馬にトラウマがある話があって。作画マニア必見の凄いカットがある。

確かに、手の動きだけで心情を伝えるカット等はなかなかのもの。仕込み杖と竹杖と、どちらを持っていこうか悩む場面も芝居が細かい。流れる川や、舞い散る木の葉も、くり返し作画なりに巧いものだ。しかし殺陣が通常と変わらないので、全体としては食い足りないところがあった。
実のところ、今話は映像よりも物語が楽しめる。逆恨みに近いうらみを持ち続ける青年*6、うらみを持ち続けるつらさを語る恋人、強い相手との戦いを喜ぶ浪人*7、それぞれ複雑な心情が描かれ、名前もないのに一個の人間として存在感がある。
加えて、盲目になったことで強くなり、結果としてうらみを買うようにもなり、自身のありように悩む市の姿も、胸にせまるものがあった。その葛藤を、武器となる仕込み杖と、武器にならない竹杖*8の選択で暗喩しているのも巧い。

*1:ここで出てくる市との対比!

*2:少し前の第9話でも、同じように佐武が一人で犯罪者を護送しながら雪山を進むはめになる。敵対する存在といつしか心をかわすようになる展開も似ている。比べてみると面白い。ただし、第9話は終盤で市が合流し、いくつかの名場面はあったものの、結局はいつもの展開になってしまった。対して第14話は徹頭徹尾、市の過去物語となっており、物語に良い変化をつけている。

*3:それだけに粗筋紹介でネタバラシをしていたことに文句をいいたい。

*4:正確には違うが、とりあえずこの表現で説明しておく。

*5:嵐の夜をさまよう船が灯台を見る冒頭描写で、興味を引きつけると同時に、あらかじめ灯台の必要性を強調していた物語構成が巧み。

*6:親分が市に殺された事情を細かく描写しないことが逆に巧い。悪人だから切られたのだろうという簡単な背景をわざわざ説明するのは、物語進行を無駄に遅らせるだけだ。

*7:この男の因縁がまた深く、キャラクターデザインと融合している。

*8:……と、思っていたら意外な使われ方がされるわけだが。