法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』アドベン茶/ベロ相うらないで大当たり!

Aパートは、木村哲コンテ。秘密道具のアドベン茶を飲んだパパが街中を縦横無尽に振りまわされる映像が見ているだけで楽しい。
ただ、原作のパパは家に帰ろうとして障害に邪魔され続ける展開だったはず。対してアニメのパパは場面ごとで障害を切り抜けようとするだけで目標を持っていない。目的があって正しく冒険していた原作と比べ、アニメは勢いだけという欠点は感じた。


Bパートは、本編ではリニューアル後で初めての渡辺歩コンテ。やや俯瞰のロングショットを多用し、夢を追い続ける作家志望の男を冷徹に映す。
少し入り組んだ丘の上、時代から忘れ去られたような作家志望の家。高架下の線路を超えた先にある工場街*1。ふぞろいの商用ワゴン車が並ぶ仕出し弁当屋。昭和の臭いを残しつつ、きちんと今を生きる人々の姿になっている。ただリアルな背景にしたというわけではなく、作家として成長する展開のため必要なリアリティだ。
原作では、いったん夢をあきらめようとしてあきらめきれなかったことが、作家を目指し続ける強さになった。加えてアニメでは、自分で納得いく作品を書けるようになった理由として、作家志望も労働も等しく喜びがあると知ったことが語られる。原作の描写や展開に映像で説得力を増す、良い補完描写だ。
なお、緻密な背景美術は冒頭の空き地から見られる。つまり今回は一度限りの別世界ではなく、のび太の街と繋がっている世界における出来事だ*2。つまり、きちんと『ドラえもん』という物語であり、のび太を主人公とする物語であり、制作者個人の暴走ではない。のび太もまた、今の実力でとどかない夢を見続ける主人公なのだから。


今回はABパートともに傑作。
特にBパートは、今年の映画には文句をつけたいところが多かっただけに、渡辺歩監督の力が良い意味で出ていて嬉しかった。

*1:踏み切りに微妙な高低差があるあたり、芸が細かく、精度も高い。今回の美術は全般的に素晴らしいので、スタッフがロケハンしたのかもしれない。

*2:逆に、いつも通りの背景と感じさせた原作が、いかに通常から緻密な画力に支えられていたかという話でもある。