法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

ミステリオタが非オタの彼女にミステリ世界を軽く紹介するための10本

アニオタが非オタの彼女にアニメ世界を軽く紹介するための10本が元ネタ。
なぜかミステリ10本が見当たらなかったので。

まあ、どのくらいの数のミスオタがそういう彼女をゲットできるかは別にして、
「オタではまったくないんだが、しかし自分のオタ趣味を肯定的に黙認してくれて、その上で全く知らないミステリの世界とはなんなのか、ちょっとだけ好奇心持ってる」
ような、ヲタの都合のいい妄想の中に出てきそうな彼女に、ミステリのことを紹介するために見せるべき10本を選んでみたいのだけれど。
(要は「脱オタクファッションガイド」の正反対版だな。彼女にミステリを布教するのではなく相互のコミュニケーションの入口として)
あくまで「入口」なので、時間的に過大な負担を伴う上下巻、シリーズ物の小説は避けたい。
できれば短編集、長くても弁当箱にとどめたい。
あと、いくらミステリ的に基礎といっても古びを感じすぎるものは避けたい。
SF好きが『モロー博士』は外せないと言っても、それはちょっとさすがになあ、と思う。
そういう感じ。
彼女の設定は

ミステリ知識はいわゆる「ミステリまんが」的なものを除けば、赤川次郎程度は見ている
サブカル度も低いが、頭はけっこう良い

という条件で。
まずは俺的に。出した順番は実質的には意味がない。


十角館の殺人
まあ、いきなりここかよとも思うけれど、「新本格以前」を濃縮しきっていて、「新本格以後」を決定づけたという点では外せないんだよなあ。シリーズでも8冊だし。
ただ、ここでオタトーク全開にしてしまうと、彼女との関係が崩れるかも。
この約束過多な作品について、どれだけさらりと、嫌味にならず濃すぎず、それでいて必要最小限の情報を彼女に伝えられるかということは、オタ側の「真のコミュニケーション能力」の試験としてはいいタスクだろうと思う。


『すべてがFになる』、『空とぶ馬』

アレって典型的な「オタクが考える一般人に受け入れられそうなミステリ(そうオタクが思い込んでいるだけ。実際は全然受け入れられない)」そのもの

という意見には半分賛成・半分反対なのだけれど、それを彼女にぶつけて確かめてみるには一番よさそうな素材なんじゃないのかな。
「ミスオタとしてはこの二つは“小説”としていいと思うんだけど、率直に言ってどう?」って。


『人格転移の殺人』
ある種のミステリオタが持ってるSFへの憧憬と、このミス絶賛のオタ的な推理へのこだわりを彼女に紹介するという意味ではいいなと思うのと、それに加えていかにも西澤保彦
「童貞的なだささを書くふりしてカッコいいあつかいの男」を体現する主人公
「童貞的に好みじゃないと見せかけて好みな女」を体現するヒロイン
の二人をはじめとして、オタ好きのするキャラを世界にちりばめているのが、紹介してみたい理由。


『火蛾』
たぶんこれを読んだ彼女は「京極夏彦だよね」と言ってくれるかもしれないが、そこが狙いといえば狙い。
この作者の作品がその後続いていないこと、これが界隈では大人気になったこと、アメリカならハリウッド映画になって、それが日本に輸入されてもおかしくはなさそうなのに、日本国内でこういうのがつくられないこと、なんかを非オタ彼女と話してみたいかな、という妄想的願望。


人狼城の恐怖』
「やっぱりミステリは子供のためのものだよね」という話になったときに、そこで選ぶのは「はやみねかおる」でもいいのだけれど、そこでこっちを選んだのは、この作品にかける二階堂の思いが好きだから。
断腸の思いで削りに削ってそれでも4冊、っていう巻数が、どうしても俺の心をつかんでしまうのは、その「捨てる」ということへの諦めきれなさがいかにもオタ的だなあと思えてしまうから。
人狼城の長さを俺自身も冗長と思うし、削れるだろうとは思うけれど、一方でこれが西村や吉村だったらただのトラベルミステリにしてしまうだろうとも思う。
なのに、各所に迷惑かけて4分冊で作ってしまう、というあたり、どうしても「自分の物語を形作ってきたものが捨てられないオタク」としては、たとえ二階堂がそういうキャラでなかったとしても、親近感を禁じ得ない。作品自体の微妙な評価と合わせて、そんなことを彼女に話してみたい。


占星術殺人事件
今の若年層で占星術見たことのある人はそんなにいないと思うのだけれど、だから紹介してみたい。
コナンよりも前の段階で、金田一の推理とかトリック技法とかはこの作品で頂点に達していたとも言えて、こういうクオリティの作品が江戸川乱歩賞でこの時代に落選していたんだよ、というのは、別に俺自身がなんらそこに関与してなくとも、なんとなく講談社好きとしては不思議に恥ずかしいし、いわゆる2時間ドラマ吉敷シリーズでしか島田を知らない彼女には読ませてあげたいなと思う。


『哲学者の密室』
笠井の「業」あるいは「左翼史観」をオタとして教えたい、というお節介焼きから読ませる、ということではなくて。
「人の死を毎日意識する」的な感覚がオタには共通してあるのかなということを感じていて、だからこそ清涼院の『カーニバル』最終作は破綻以外ではあり得なかったとも思う。
「祝祭化した殺人を読む」というオタの感覚が今日さらに強まっているとするなら、その「オタクの気分」の源は第二次世界大戦の大量死にあったんじゃないか、という、そんな理屈はかけらも口にせずに、単純に楽しんでもらえるかどうかを見てみたい。


『四月は霧の00密室』
これは地雷だよなあ。地雷が火を噴くか否か、そこのスリルを味わってみたいなあ。
こういうジュベナイル小説風味の恋愛をこういうかたちで小説化して、それが非オタに受け入れられるか気持ち悪さを誘発するか、というのを見てみたい。


涼宮ハルヒの退屈
9本まではあっさり決まったんだけど10本目は空白でもいいかな、などと思いつつ、便宜的にハルヒを選んだ。
新本格から始まってラノベで終わるのもそれなりに収まりはいいだろうし、ネット以降のメタネタ時代の先駆けとなった作品でもあるし、紹介する価値はあるのだろうけど、もっと他にいい作品がありそうな気もする。
というわけで、俺のこういう意図にそって、もっといい10本目はこんなのどうよ、というのがあったら教えてください。

二階堂作品自体は嫌いでないが、ありそうな感じで。