創作文芸板の三題話を作るスレッドで書いたもの。題は「おかか」「かさ」「鮫」。
一箇所だけ状況を整理した。
「おとと達は、いつ海から帰るの?」
娘が、水汲みをたのんできた母に問うた。
「水神様しだいやが、漁が終われば明後日にも帰ってくるけ、心配せんどき」
娘は手桶を持って屋外に出ると、薄曇りの夜空を見上げた。
「おかか、月さんにかさがかかっとるよ。雨が降らなんだらええんやけど」
満月を、ぼんやりとした光の輪が取り巻いていた。天の崩れる兆しである。
川の水を汲んで、手桶をかかえて帰る時、娘を呼び止める声があった。
「そこの娘、どうか水を恵んでくれぬか。皿が乾いて死にそうじゃ」
道端の巨木に、黒くひからびかけた河童が、太い縄で縛られていた。
「私を助けてくれれば、今ここで願いを三つ叶えてやろう。他に何ら見返りはいらぬ」
娘はしばし考え、父が早く帰る事、嵐に会わぬ事、大きな魚が捕れる事を願った。
「よし、叶えてやろう」
娘に水をかけてもらった河童は縄を引きちぎり、流れる川に飛び込んだ。
次の朝になると、港に漁船が戻ってきた。獲物は大きな鮫が一頭だけ。
なぜ早く帰ったかと問われた漁師は応えた。娘の父が喰われたからだ、と。
注記しておくと、頭にある皿が乾いた河童は力を失うという伝説がある。
いわゆる“3つの願い”だが、物語としての深みはない。