法華狼の日記

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東中野修道氏、まずは敗訴

南京事件をめぐる書籍の名誉毀損訴訟において、日本の地裁で名誉毀損認定されたとのこと。
http://www.asahi.com/national/update/1102/TKY200711020441.html

南京大虐殺本「被害者と別人」 名誉棄損認定 東京地裁

2007年11月02日22時48分

 いわゆる「南京大虐殺」の生き残りとして体験を語り続けている中国人の女性を「生き残った少女とは別人だ」と指摘した書籍「『南京虐殺』の徹底検証」をめぐる訴訟で、東京地裁(三代川三千代裁判長)は2日、書籍が女性の名誉を傷つけたと認め、著者の東中野修道亜細亜大学教授(60)と出版社「展転社」(東京都文京区)に対し、慰謝料など計350万円を女性に支払うよう命じる判決を言い渡した。

 訴えていたのは、中国・南京市に住む夏淑琴さん(78)。8歳だった37年12月、自宅に押し入った日本兵に両親ら7人を殺され、自身も銃剣で刺されたという。

 判決などによると、事件翌年に米国人牧師が現地で撮影した16ミリフィルムがあり、解説文の中に「8歳の少女」が登場する。東中野教授はこの解説文を検証して、著書で「『8歳の少女』と夏淑琴は別人で、事実を語っていない」という趣旨の指摘をした。

 三代川裁判長は、解説文中の「銃剣で突かれた」という意味の英語を東中野教授が「銃剣で突き殺された」と訳したために別人と誤って解釈したと認定。「通常の研究者であれば矛盾を認識するはずで、原資料の解釈はおよそ妥当ではなく学問研究の成果に値しない」とし、教授の指摘は「真実であるとする理由がない」と判断した。

「通常の研究者であれば」というが、そもそも東中野氏は日本史について素人に近い。少なくとも南京事件に関して教授の肩書きを用いるべきとは思えない*1
亜細亜大学で公開されている教員データ*2ですら「担当科目」は「基礎演習、専門準備演習、演習、政治思想史、社会思想史I、社会思想史II、西洋史I、西洋史II、日本思想史I、日本思想史II」と、南京事件に深く関わりそうにない部分がほとんど。「専門」も「政治思想史、日本思想史」だ。「現在の研究課題」でようやく「全体主義政治、吉田松陰南京事件」と、南京事件が登場する。ここまで来ると「主な著書・論文」の欄が南京事件関連でしめられていることが不自然でしかたないとわかるだろう。

 展転社によると同書は約8000部発行。別の出版社が英語版、中国語版も発行しているため、判決は東中野教授に、さらに翻訳版の分として50万円の支払いを命じた。

南京事件否定論を外国に広めるつもりで翻訳した結果、傷を広げることになったようだ。

 判決後に記者会見した夏さんは「南京虐殺から70年を前にして記念すべき日で、亡くなった同胞にも一つの弔いになった。真実を述べる機会はそんなに多くない。これからも史実を語り続けたい」と語った。東中野教授は「非常に心外だ。控訴する方針だ」とのコメントを出した。

控訴するつもりのようだが、そもそも東中野氏は裁判にまともに顔も出さず、きちんと反論することもしていなかった。控訴は裁判の先のばしにしかならないのではないか*3
老齢の被害者が亡くなるのを待っているのでは?と邪推したくもなる。原則として名誉毀損訴訟では事実であることを被告側が証明しなければならないが、被害者が亡くなると原告側が事実でないことを証明しなければならなくなる。近年では百人斬り名誉毀損訴訟でも、百人斬りをしたとされる両少尉が亡くなっていることが原告敗訴した大きな要因の一つだった。

*1:ゆえに東中野教授ではなく東中野氏と呼んでいる。

*2:http://www.asia-u.ac.jp/gakubu/hougaku/higa.html

*3:もちろん控訴によって判決がくつがえらないとはいいきれないが。