法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

社会派SFミステリとしての『マイノリティ・リポート』

フィリップ・K・ディック原作、スピルバーグ監督のSFミステリ映画。全ての犯罪が予知される世界で、自分の犯罪が予知された捜査官による逃亡劇。
ネタバレ多めにつき、以下は続きを読む方式で。
真犯人が示すように、予防拘束の問題だけでなく、検察が裁判と等号で結ばれた場合に起きる必然的な問題も視野に入った、SFミステリ映画の佳作だ。逃亡劇で楽しませてくれるため、ミスディレクションの弱さも気にならない。
……リアルな撮影に比して、工場等でスピが見せる稚気にあふれすぎたギミックがしょうもないとは口がさけてもいわない。


さて、冒頭の事件からして、現実の多くは凶悪なサイコパスによる計画殺人ではないということを象徴している。
普通の人間が倫理観を忘れるほど感情的になって起こす衝動殺人こそ、殺人事件で多くの比率をしめるらしい。つまり罰則と利益を計算しながら人を殺すなどということは滅多にないのだ。真面目に利益を計算できるなら、無期や長期刑であっても殺人が無益だと思うだろう。死刑になっても良いから人を殺すという思いで起こされる殺人は多く、中には死刑になるために人を殺したという者までいる。厳罰化が治安改善にすぐさま繋がるわけではないということだ。
冒頭の事件は同時に、犯罪が予知される世界でも事件が存在しうるよう脚本に整合性が求められた結果でもある。完成度と寓話性と結びついているからこそ深みを感じる。


日本の二時間ドラマでもたまにシリアスな冤罪モノがあるが、司法制度に踏み込んだ映像作品はなかなか見ない。
法廷劇からスリラー、警察アクションにSFと、裁判の見方を考えさせられる契機となる多彩な作品を容易に目にすることができるのは素直にうらやましい*1

*1:訴訟社会という背景や、映画が安価な娯楽といった側面ももちろんあるが。