かんべえの不規則発言
従軍慰安婦決議案について、かんべえ氏がいくつか指摘している。興味深かったのが6月27日の記事だ。
〇要するに、下院外交委員会はこればっかりを討議してたわけじゃないってことです。それどころか、妙な決議案がいっぱい入っていることにお気づきでしょう。H.Res.208「微笑み運動の設立25周年を称える決議」とか、H.Res 287「アメリカという言葉が初めて使われた500周年を祝う決議」だとか。なにしろ提出は「月100本」ペースですから、時間がいくらあっても足りません。
これは左右問わずに指摘されてきたこと。私のような左派は右派が自ら小さな問題を拡大したと笑い、右派はたいした拘束力じゃないと問題の矮小化をはかる。ともかく、保守一部の自己愛が崩れる程度の話という点では一致しているわけだ。
そして、かんべえ氏が力を入れている指摘は以下。
〇ひとつご注目いただきたいのが、継続審議となったH.Res 497であります。「中華人民共和国政府は、ただちにRebiya Kadeerの子供とカナダ市民Huseyin Celilを禁固から開放し、ウイグル人民に対する文化的、言語的、宗教的な抑圧を慎むべきであるとの下院の意思を表示する決議」です。この手の対中非難決議はそれこそ枚挙に暇がないのですが、この共同提案者が以下の通り。
Ms. ROS-LEHTINEN (for herself, Mr. LANTOS, Mr. BURTON of Indiana, Mr. ROHRABACHER, Mr. CHABOT, Mr. PENCE, Mr. TANCREDO, Mr. PITTS, and Mr. HONDA) submitted the following resolution; which was referred to the Committee on Foreign Affairs
〇マイク・ホンダ議員が入っているでしょ? 慰安婦決議を提出したことで、彼が中国からお金をもらっているという報道がありましたけど、こんな風に中国叩き法案にも加勢しているのです。また、ここに名前の出ているラントス議員は、外交委員会の委員長ですが、慰安婦決議でも長文の声明を提出して日本を批判しています。が、それは変なことでも何でもありません。
〇この手の議員たちは、反日でも反中でもなくて、「人権派」なのです。ペローシ下院議長も、中国に対してきわめて厳しい人権派議員の一人です。その彼女が、慰安婦決議を支持しているので、7月には本会議に上程されて可決されるでしょう。今回、彼女が発表した声明文は、「日本はアメリカに取って価値ある友邦だが、この問題についてはそれ以上の義務を果たす必要がある」というものでした。
現在の日本左翼が目指すような*1、広い問題を視野に入れていることがわかる。国家によって批判するかどうか選択しているわけではないのだ*2。
もっとも、かんべえ氏の認識には疑問もある。
〇彼らの価値基準で行くと、変な話、「PKOの隊員が買春をしても有罪」になってしまいます。歴史問題についても、いささかステロタイプな考え方をしているかもしれません。「戦前のドイツと日本は悪」という彼らの固定概念を、変えさせることははっきり言って困難だと思います。それでも、例えば日本が北朝鮮の拉致問題を追及するときに、いちばん力になってくれるのはこういう人たちです。日本という国は、アメリカの人権派議員たちを敵に回すよりは、味方にする方が得なんじゃないでしょうか。
軍内部で売春所を管理することと、個々の軍人*3が現地の売春婦を買うことには差違がある*4。何より、騙して売春婦にして拘束し、人身売買も行ったということが重要な問題なのだ。「変な話」になるのは比喩が間違っているからだろう。
そもそもマイク・ホンダ議員は日系人収容所問題を扱い、米国政府に謝罪させた過去があり、反日などというくくりではかれる人物でないことは自明だった。「戦前のドイツと日本は悪」という観念が問題になるのは、日独以外の問題を極端に擁護し免罪する場合だけだろう。ホンダ議員は米国の問題にまず向き合った人だ。
産経新聞が誤報あるいは捏造してまで伝えたRAA調査指示にしても、従軍慰安婦制度を理解するためにとどまらず、米国の暗部をも視野に入れなければできないことだろう。*5。
*1:私のように興味は持っていてもなかなか記事にまとめるほどの実行力がない人間でも、目標にしているということは書いておく。
*2:ちなみにホンダ議員に対して中国系団体から献金が行われていることも事実なようで、逆に在米中国人団体の立ち位置についても推測できる材料になる。
*3:かんべえ氏の出した例は自衛隊員だが、この場合に軍人と広く呼んで不都合はないだろう。
*4:もちろん、軍人が占領地で買売春する場合、性的搾取構造が存在するだろうことは否定できない。
*5:程度問題ではあるし、矮小化させようとしていた可能性は全否定できないが、私はむしろRAA批判こそホンダ議員の主目的ではないかという憶測すら持っている。少なくとも、米国を賞揚するのが目的であれば取り上げる必然性はない。