法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

軍強制を否定するために、一を全に拡大した話

NHK総合クローズアップ現代』にて、沖縄集団自決における軍の強制を教科書から削除するように求めた検定について。
削除を進める側の代表として解説したのが自由主義史観の藤岡信勝という時点で、失笑するしかない。


さて、検定意見をつけた側の意見は初公開とか。少なくとも私は初見。
まず、自決もしくは戦闘を行わされそうになったという表記について。日本軍の命令や強制については弱めるよう求められたが、日本軍が配った手榴弾で自決したという表記ならば、「事実」だからかまわなかったらしい。……日本軍は手榴弾を配って、戦闘や自決ではなく何を選択させようとしたといいたいのだろうか。
そして検定意見の根拠に、驚いたことに林博史教授の著作が使われたという。念のために林教授について説明すると、従軍慰安婦問題で合法派を激しく批判し、沖縄集団自決で日本軍の責任を厳しく追及している社会学者である*1。沖縄集団自決の教科書検定NHKの番組で批判すらしていた。その林教授の『沖縄戦と民衆』より、命令する文書はなかったという部分だけを抜き出し、軍の強制性を否定したのだという。全体としては日本軍に自決を強制されたということが書かれているのに。もちろん番組でも重ねて林教授が指摘している。それこそ一部の命令ではなく、日本軍全体の持っていた強制性の現われで自決したことを示している、と。
もちろん、文書で自決命令を出すなどということはなく、口頭で命じたのだと証言収集者は主張する*2
資料のトリミング、文書が無ければ命令は無いという論理、日本軍の責任を過小評価する人間は筋金入り。何もかもが、南京事件従軍慰安婦と同じ風景だ。

*1:公式サイトhttp://www32.ocn.ne.jp/~modernh/。論文ページが充実していて嬉しい。

*2:さらに日本軍が存在しない島では自決がほとんどなかったという指摘もされた。