法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

どうしてもサイゼリヤで満たされない人はいるし、トップバリュに助けられる人もいるのに、インターネット大喜利に不都合だと無視されがち

どちらにしても良くも悪くも営利企業なので、完全に利益を度外視することは期待できない。
特にサイゼリヤは、東北の青森、中国は島根、四国四県、九州の長崎大分熊本鹿児島、沖縄には店舗が存在しない。
shop.saizeriya.co.jp
対価に比べて良好な料理を提供するサイゼリヤの企業努力は、地方を切り捨てる計算もふくまれていると考えるべきだろう。
一方でイオンの大型店舗がない都道府県は福井だけ*1。それもマックスバリュならば複数ある。
withnews.jp
www.aeon.com
トップバリュにはプロの料理関係者が高評価するような商品もあるが、こういう時にかえりみられることはない*2

他にトップバリュでいえばグリーンアイのような挑戦的なブランドもあるわけだが、ひとくくりに低評価の対象になっていたりもする。
www.topvalu.net
このポテトチップスは他社でも似た趣向の商品を出してほしいくらいの良さがあると思うのだが。

*1:もちろん大規模小売店の地方進出それ自体への疑問も考えられるが、その観点ならばサイゼリヤに対しても適用するべきだろう。

*2:私自身はアルコールをまったく嗜まないので、よく悪口大喜利の対象になっているウィスキーともども評価はできないが。

『GANTZ:O』

 駅で通り魔にたちむかった青年が、刺された後に見知らぬアパートの一室で覚醒する。そこには謎の黒い球体があり、ガンツと呼ばれていた。青年は生き返ってたったひとりの家族に再会するため、ガンツの指示するサバイバルゲームを仲間とともに始めるが……


 2016年の3DCGアニメ。TVアニメや実写映画にもなった奥浩哉の漫画を、さとうけいいち総監督でデジタルフロンティアが映画化。原作の大阪エピソードを抽出して、ひとつの物語にまとめている。

 物語は完全にデスゲーム物の中盤をとりだしただけの作りだが、初参加の主人公に周囲が説明することで設定が追いやすい。次々に異常や危機が起きるなかで説明を求めるので、だらだら解説するだけの緊張感がない場面も存在しない。
 観客に開示したルールを最大限に活用しつつ意外性も足して、はてしなく戦いがつづくオチでありながらドラマとして納得感のある結末に落としこんだことも感心した。原作からの抽出とわずかな改変が見事。
 強力な大阪チームのトップ三人が傲慢なだけではない実力の違いを見せたり、現世で超常的なゲームがおこなわれることで乱入した自衛隊により怪物やアイテムの強力さを実感させたことも、デスゲーム物に必要な段取りを必要充分にやっている。


 映像は完全に3DCGで構成されているが、手描き作画のアクションアニメで卓越したアニメーターの寺岡巌や橋本敬史らが絵コンテとして参加。どのパートを誰が担当しているのかはわからないが、2Dアニメでは難しいカメラワークでいて、けして見づらくない映像で構成されていることに感心した。
 原作は部分的にしか読んでいないが、過去の映像化と比べて主観視点の多用も印象的。特にアパートの一室まわりの転送描写と、物陰に隠れて怪物たちを見るカットは出色だった。そうした難しいカットを成立させるにあたって3DCGの正確なパースが効果をあげているのだろうし、同時にカメラをなめさせるオブジェクトをていねいに用意する手間のかけかたもリソースのわりふりとして正解。


 日本の3DCG作品としては、頭部が露出している原作デザインのスーツから逃げずに、老若男女の多様な頭髪を自然に表現していることも良かった。
 同じさとうけいいち総監督が2014年に東映でつくった『聖闘士星矢 LEGEND of SANCTUARY』の長髪は不自然で途中から短髪になるくらいだったし、別スタッフの『アップルシード アルファ』は最初から短髪キャラクターばかり。ようやく日本でもCG毛髪が自然に表現できるようになったのだと実感できた。
hokke-ookami.hatenablog.com
hokke-ookami.hatenablog.com
 大阪の道頓堀を中心とした、適度に狭くも立体的な舞台でのアクションも先述のようにそつなく見せ切っている。もう少し手間をかければそのまま実写作品のVFXにもつかえそう。集団戦も巨大な敵に罠をかける戦いも、巨大ロボットをつかったような怪獣映画のようなアクションまで楽しめた。

劇場版『モノノ怪』から橋本敬史氏が降板した経緯が、とにかくつらい

原型的な作品『怪~ayakashi~』「化猫」からキャラクターデザインをつとめ、発展したTVアニメでビジュアル全体を牽引した橋本氏が、劇場版から降板した経緯をツイートしていた。
togetter.com
製作側の説明としては、元ノイタミナプロデューサーで現ツインエンジン取締役の山本幸治氏により、降板させた視点でnote記事が発信されている。
note.com
togetter.com
今回は橋本氏側が以前から説明していたことだが、後から取り消すことができないアウティングになりかねない情報が書かれていること自体が、深刻さをうかがわせてつらい。
橋本氏が回復することをひとりの視聴者として祈っているし、きちんと投薬治療をつづけていたことも知っているし、それゆえ安易な楽観も悲観もつつしむべきだろうと思う。
ツイートやリプライで希死念慮をくりかえし公言していることも気にかかる。一種の脅迫のように受けとられがちだが、実行にうつしかねない危険性もある。
www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp
フリーランスが一般的な業界のありようが、症状を重くして福祉を遠ざけ治療を遅らせた可能性なども想像してしまうが、外部から安易な判断もできない。


ただ、一般的にこのような状況になった時、最も苦しんでいるのは橋本氏と考えるべきだが、周囲がそれにひきずられる必要もない。
小さな苦痛や不満に耐えられなくなるほど心身が過敏になった場合、被害者意識から周囲への攻撃的な言動にいたることがある。その苦痛をうったえる文章も、ツイートくらいの文字数なら説得力のある短文を書けても*1、相手の意向も考慮した客観的な長文を書く能力は弱まっている。
異論を受けつける心身の余裕も失われている。少し文脈のこみいった説明をされると、それを理解する努力そのものが苦痛になり、被害者意識を増大してしまう。どれほどていねいでも反論をおこなえば、それ自体が敵意を生みだしてしまうし、主張の矛盾をつきつけられたとしても間違いを認めるとは限らず、最初の主張に戻るだけで徒労に終わることもしばしばだ。どれほど親身になっても、実りのある議論や会話は難しい。
同時に注意したいのは、過敏ゆえに不満や苦痛に耐えられなくなったことは、その不満や苦痛が存在しないという意味ではないこと。周囲からは不当な主張に見えても、慣例として許容され無視されていた問題を過敏さゆえに気づけている場合もある。しかし同時に、その問題ひとつを解消して苦痛がいったん緩和されても、心身の過敏さはつづいているので、またすぐ別の苦痛や不満をうったえる。それが周囲の徒労感を生んだり、妥当なうったえまでふくめて不当なうったえであったかのような印象を生みだしてしまう。
いずれにしても、苦痛のうったえが妥当か不当かは個別に判断しなければならないし*2、その問題の解決とも独立して苦痛を解消しなければならないだろう。とにかく大変な話になるが。

*1:技術などの能力が完全に失われるわけではないので、職人としては過去と比べても悪くない成果を出せたりもする。橋本氏ほどのアニメーターなら、山本氏らの説明が事実でも、現在のアニメ業界では引く手あまただろう。

*2:ただ、あまりに膨大なうったえになると、その判断を個別におこなう負担も大きくなる。

『世界まる見え!テレビ特捜部』戦慄の瞬間2時間SP

ミニ映像集はさまざまな事故を偶然とらえたもの。よく中国と爆発をむすびつける「ネタ」が日本のインターネットでは好まれているが、番組では中国はもちろんさまざまな国の爆発も紹介する。事件事故を偶然に記録して、さまざまなメディアが報じる時代において、ただ目につくというだけで特異な頻度を見いだすべきではないのだろう*1


海の動物たちに人間がおそわれるエピソード集は、ヨットにぶつかってくるクジラや頭をくわえてくるゾウアザラシなど、動物側が遊びのつもりで人間が命の危機に直面する出来事が印象的。


1997年、ロシアの宇宙ステーションミールで米国の宇宙飛行士が直面した火災事故を紹介。冷戦直後の融和を目指した共同計画で2年間の訓練をロシアでおこない、ミールに行ったが、そこは訓練施設とはかけはなれたゴミゴミした空間だった……
米国視点だけでなく、ロシア飛行士も実名で証言する。しかし番組の編集が悪いのか、事故の発端となる酸素供給でなぜ火災が発生したのかがよくわからない。故障による火花でも散ったのかと思って検索したところ、もともと熱で酸素を発生させていたことをJAXAの古いページで知った。
ミール宇宙ステーション事故履歴

 ミール船内で、酸素供給システムのバックアップ装置である酸素発生キャンドル(熱することで化学的に酸素を発生させる缶)が火元となる火災が発生しました。

充満した煙のなかで壊れていない酸素マスクを見つけようとしたり、脱出の準備をととのえたりとサスペンスフルなドキュメンタリだったが、描く要素が少なくて映画化は難しいかな。
他に2001年、国際宇宙ステーションISSで起きた視力喪失事故を紹介。船外作業中に謎の眼の痛みをおぼえて視界が失われたという想像するも恐ろしい事故だったが、地上の助言で空気をヘルメット外に放出して不純物の排出に成功、視力をとりもどした。原因はヘルメットの曇り止めが剥離して目に入ったためだった。


米国の新人警官の実地研修を追うドキュメンタリーは、のんきな黒人男性とピュアな白人女性が、それぞれ別の現場で奮闘する。若い恋人たちのポエムを書くことが趣味な、年長の黒人男性に不思議なキュートさがある。
銃撃戦の危険などがある局面で、POV映像ならではの迫真性が生まれるかと思いきや、全体的に空気が弛緩している。役割語を強調した吹替の問題だろうか。もちろん新人が本当に危険なところからは距離をとっているためもあるだろうが。


英国からは2007年、MSCナポリ号の海運事故を紹介。検索すると日本でも専門誌の論考らしき記事が引っかかるし、世界的にも重要な事故だったらしい。
事故からしばらくたって状況に気づく新人の視点で導入したりと、ディザスター映画のような構成のようでいて、救命ボートはきちんと機能したし救助もすぐに来たしで、あまり災害サスペンスは感じない。
どちらかといえば船体が損傷したMSCナポリ号からの重油流出をどのように防ぐか、事故の原因は何だったか、といった事後処理に重きをおくドキュメンタリだった。自然保護区である浅瀬にあえて動かして座礁させて完全な沈没をふせいで、重油を完全にぬきとることに成功したり。過積載な上に配置のバランスが悪かった他、エンジンルームが船体の中央近くにあって船の骨組みがそこをよけていたり。スタジオが指摘するように、事故が発生した後の処理はほぼ完璧という印象が残った不思議なドキュメンタリだった。


最後はザンビアザンベジ川で旅行していた中年男アーサーとアリステア、そしてアーサーの妻とその父母の恐怖体験を紹介。
釣りをしたり楽しんでいたところを、なわばりを守ろうとしたカバがボートを攻撃して転覆。ひっくりかえったボートでアリステアとアーサー妻の父、川の中央でひざまで水につかるような浅瀬でアーサーと妻と妻の母が、それぞれ孤立する。
ワニのいる危険な川をアリステアが泳いで、背後のワニに反撃しながら岸までたどりつくも、血まみれの状態で動けなくなる。一方でアーサーたちは浅瀬に集まれたものの、ワニがいつ来るかを恐れて気を休めることができずに寒い夜をすごす。
しかしアリステアはなぜか横でバッファローが休んだおかげで肉食獣におそわれずにすみ、サスライアリが傷口にたかった激痛で逆に覚醒。助けを求めて移動しつづけ、対岸で男女がキャンプをしている場所までたどりつく。大声を出せずに失神したアリステアだが、数時間後に帰りぎわの男女が発見して救出、アーサーたちも助かった。
サメ映画やワニ映画の真面目なパターンを見ているような面白さがあって、自然サバイバルドキュメンタリとしては上々。ちなみに検索すると、サッカー選手が死亡する事故が起きるくらいにはワニが危険な川らしい。
www.afpbb.com

*1:そもそも「破裂」くらいのニュアンスでも中国では「爆発」という表記をつかうので、実態以上に増えて見えるという理由もあるらしいが。

『デリシャスパーティ♡プリキュア』第15話 ドキドキ!ここね、初めてのピクニック!

学校の食堂がつかえなくなり、担任教師がピクニックランチを提案する。イベント的にみんなで食べる計画にクラスはおおもりあがり。特に高嶺の花と思われていた芙羽との会食を願うクラスメイトが多く、それにこたえるように芙羽も全力をつくそうとする。しかし、華満らんはひとりで食事を楽しんでSNSに投稿している人物に憧れを感じていた……


東映でキャリアをつんできた伊藤睦美が脚本。一方で絵コンテの佐藤道拓はあまり見ない名前だが*1、多用されたデフォルメ表情もアクションのエフェクト作画も全体的に良好。
物語は前回*2とは逆に、正体を隠したヒーローとして和実に高評価されることを内心で期待している品田がかわいい。絶妙なふびんさで応援したくなる。和実が超然とした性格だけに、品田のようにサブキャラクター視点のほうが無理なく物語が進行する。
本筋では、いくらシェアをメインテーマにしている作品だからといって、料理を集団で楽しむことを前提にしすぎた語り口に違和感をもったら、それは意図的なものとわかる展開も良かった。クラスメイトとのランチを楽しもうと手いっぱいになって自身が楽しめない芙羽に、物語の序盤にあったコミュニケーション下手キャラクターとしての魅力を思い出させる。
それと対比するように、ひとりで食事を楽しむ初老の運転手をとおしてシェアするだけではない食事の楽しさを描いていく。『孤独のグルメ』が定着してひさしいが、実際に高齢の男性がブログやSNSで食事を楽しむ姿を発信する時代にもあっていて*3、まったく違和感がない。メインテーマを完全に否定するわけではないが、それと対立する考えも肯定していくエピソードを挿入することは基本的に連続ストーリーにおいて好ましいと思っている。
プリキュアが勝手にブラックペッパーの呼称をブラぺにしてしまったり、文字通りナルシストな敵幹部がブンドル団のかけ声の格好悪さをツッコミ入れたり、キャラクターのライトな行動もちりばめていて楽しい。メインキャラクターが自滅するように失敗するエピソードでありながら、ストレスがたまりすぎない。

*1:今作第8話の演出なので、スタジオぎゃろっぷ関係者だろうか。 hokke-ookami.hatenablog.com

*2:hokke-ookami.hatenablog.com

*3:インターネットにおける飲食店の情報発信が少なくレビュワーの絶対数も足りない田舎に在住していると、そういうアマチュアの美食ブログが外食先の選択にあたって貴重な情報源になっている。