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アニメ評論家の藤津亮太氏が、面白い作品や歴史的な転換点ではなく、ヒッチコック作品のように勉強として踏まえる作品のリストを作っていた。
このリストは「すべてのおもしろい作品」や「歴史的転換点の作品」を網羅することが目的ではない。
複数作品を組み合わせることで、アニメを貫くさまざまな文脈についても知ることができる、というふうに選んでいるところが重要なのだ。
『巨人の星』のようにまともに見ていない作品も複数あり、不勉強ぶりを恥じるばかりである。
とはいえ、欠落している文脈を考える叩き台としても興味深いリストではある。現時点で藤津氏も『惡の華』を入れ忘れたむねをツイートしていた。
まず思いついたのが、マッドハウス制作で、アメコミ調のくっきりした方向性のビジュアル作品として、『REDLINE』……
……はアッパーな娯楽を期待させて青春のダウナーを描いているが、ちゃんと面白くよくできた作品なので、ここは『DEAD LEAVES』で……という裏切る方向性は今回はやめよう。
やはり一定以上、素直に作品としての良さもあるリストにしたい。そこで小池健のビジュアルも魅力的な『REDLINE』をリストに足したい。配信サイトによっては見放題で視聴もできる。
藤津氏のリスト全体をながめると、女性向け作品の少なさ、文脈の押さえづらさを感じる。
そこで原作とは異なりつつ美麗さのある荒木伸吾キャラクターデザイン、出崎統とはまた違う表現主義の演出として、山内重保による映画版『聖闘士星矢』。とりあえず『真紅の少年伝説』で。
また非ロボットのメカアニメ、いのまたむつみキャラクターデザインといった見どころから、『サイバーフォーミュラ』は入るのではなかろうか。先にあげた『REDLINE』と比較しがいもある。
キッズアニメらしさを残したTVアニメをあげたが、より客層をしぼったOVAでもいいかもしれない。
キャラクターデザインの潮流としては、すでにリストにある『御先祖様万々歳!』の前後もいくつかほしい。
ロボットアニメも異世界転生系アニメも少ないし*1、どのような角度からも立体として破綻しないことを目指した湖川友謙キャラクターデザインから、『聖戦士ダンバイン』。
美少女ゲームを日常系のようにTVアニメ化するはしりでもあり、瞳が大きくもアニメの立体として破綻していない千羽由利子キャラクターデザインが脅威だった『ToHeart』。映像ソフトはプレミア気味だが、配信サイトによっては安く見られるはず。
他にデジタル系の発展を見られる作品については、いくつかの作品を考慮しつつ落とした意図が語られ、新作が多くて選ぶ難しさも指摘されている。
とりあえず、当時は違和感を指摘する声も多かった、フォトリアルなCGをそのまま手描きアニメと同居させた『青の6号』。手描き部分でもデジタルによる彩色や、モーションブラーなども見られる。
同じ制作会社なので落としたが、意外な佳作として『トランスフォーマー ギャラクシーフォース』も考えた。販促玩具をCGで複雑なデザインのまま登場させた文脈だけでなく、海外との合作という要素もある。
FLASH系もふくめたデジタル作画の潮流として、『ノエイン もうひとりの君へ』。京都アニメーション以前に、地方から完成度の高い元請け作品が送り出された文脈もある。
コンポジットの威力をOPなどで見せつけ、本編でも意欲的にグラデーション表現などをとりいれた『がくえんゆーとぴあ まなびストレート!』。同じ制作会社の作品でも、とりこぼさないよう勉強でチェックするならこれだろう。
リストは『エースをねらえ!』の劇場版を最後にスポーツアニメが入っていない。
とりあえず『巨人の星』から多数ある野球アニメの文脈でなら『タッチ』を押さえるべきか。タイアップ主題歌にあわせたOP演出のおしゃれさ、スカした原作の空気の再現も見どころ。
おそらく出崎作品が多いので『あしたのジョー』は落とされたのだろうが、かわりに『はじめの一歩』はどうだろう。TVSPがまとまっていて見やすい。リアリティよりもアニメーションとして心地よい動き、デジタルを活用した汗しぶき表現。
なお、『キャプテン翼』や『スラムダンク』などは原作こそ魅力的でも、広すぎるコートなどでアニメ化作品は反面教師としてのあつかいが多いような気がする。
歴史的にふまえる流れとしては、やはり海外作品を意識したモノクロ短編『くもとちゅうりっぷ』から始めたい。ミュージカル調も心地よく、自然現象をとらえたエフェクト作画の出発点としても見どころがある。
かなり尺が短いこともあって、「映画好きが『カリガリ博士』は外せないと言っても、それはちょっとさすがになあ」*2とは言わせない見やすさがある。
長期シリーズの初リメイク映画であり、フィクションにおける恐竜観の変化や、デジタルによる描線表現の流れを押さえるためにも『映画ドラえもん のび太の恐竜2006』はほしい。
最後に、ツイッターの応答を見ていて、藤津氏が『ジャイアントロボ』、おそらく今川版を落とした理由の説明があった。
しかし書き込みの過剰化ではないビジュアル向上という文脈で押さえられるはず。作画や演出のスタックワークで見れば『エヴァンゲリオン』につながる解釈が可能だろう。
ワルシャワフィルハーモニーを起用したBGMの厚みなど、音響面の変化も前後の作品と見比べれて感じられるところがあるはず。
とりあえず暫定的に思いついた追加の12作品リストができた。
20歳を想定しているので、勉強するまでもなく視聴して記憶している可能性が高いだろう最近十年以内の作品は意識的に外した。
1943『くもとちゅうりっぷ』
1983『聖戦士ダンバイン』
1987『タッチ』
1988『聖闘士星矢 真紅の少年伝説』
1991『新世紀GPXサイバーフォーミュラ』
1992『ジャイアントロボ THE ANIMATION ~地球が静止する日~』
1999『ToHeart』
2003『はじめの一歩 TVスペシャル ~Champion Road~』
2005『ノエイン もうひとりの君へ』
2006『映画ドラえもん のび太の恐竜2006』
2007『がくえんゆーとぴあ まなびストレート!』
2010『REDLINE』
元のリストとあわせれば、わりと真面目に『機動戦士ガンダム』から『新世紀エヴァンゲリオン』へ進化する過程に『聖戦士ダンバイン』と『ジャイアントロボ』がある。リアルな都市のなかに異物のようなロボットが配置されるレイアウト、それによるロボットの巨大表現の進化。特殊な背景をつかった心象演出が、作中で実際に顕実している設定への変化もある。
また、スポーツにおける作戦の理屈づけの巧妙さ、スポーツに人生をささげて心身を削っていくドラマの深化という意味では、スポーツのジャンルこそ違えど『巨人の星』と『はじめの一歩』はけっこう比較しがいがあると思う。
『青の6号』はビジュアルは当時最新でありつつ、根幹はけっこう古典的なアニメらしさがあり、意外と多くの作品と比較できるはず。『ホルスの大冒険』のように敵味方を超えたラブストーリーとしても読めるし、元リストでは『白蛇伝』『ガンバの冒険』くらいでとだえている動物擬人化アニメの流れで見ることもできるだろう。
他にジャンルを超えた関連性として、学園のなかから少女たちの革命を描いたアニメとして『少女革命ウテナ』から『まなびストレート!』。荒木作画の過剰さという文脈で『巨人の星』から『聖闘士星矢』へ。『マインドゲーム』と『REDLINE』のクライマックスシークエンスの類似、等。