法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ヤマトよ永遠に』

突如として暗黒星団帝国が地球に侵攻する。しかし破壊は初期にとどめ、制圧後は意外なほど過去になく穏健な交渉を求めてくる。その材料となるのが、ヤマトだった……


松本零士舛田利雄の共同監督による1980年のアニメ映画。TVアニメ版の初代『機動戦士ガンダム』が前年に放映されており、ちょうど作品人気が世代交代するさなかの公開だった。

後にシリーズ恒例となった、過去の成功をなぞるためだけに、整合性を無視して設定を生やした凡作。不可逆な犠牲で悲劇を描きたいのに、同じ展開を工夫なくつづけるため設定を後づけ。今回はとってつけたようにそっくりさんを複数出す。
作画も弱くて、『銀河鉄道999』や『ルパン三世 カリオストロの城』が前年に公開された時代としては残念。金田伊功による中間基地攻略も、体調不良で原画をあまり描けなかったらしく、実際に金田らしい魅力あるフォルムと平凡な作画が混在している。
ただ意外とワープディメンジョン後のシネスコサイズのレイアウトだけはいい。最初から当時のアニメ映画には珍しいシネスコ作品として作っても良かったのに、と思うくらいだった。


本編はとにかくスケールが小さい。敵地に残った少女ひとりが敵惑星の構造を調べて連絡してきて、地球に送りこんだ兵器の起爆装置も単身で壊して、両極地にある出入口を開けてヤマトを導く展開は、宇宙規模の戦争という感じがまったくない。
敵首領の聖皇帝も、少なくとも部下の女性がいるのに、少女を銃撃しに単身で制御装置のある一室にやってきて、銃を撃ちあって傷ついてしまう。地球に爆弾を置いて脅迫する展開もふくめて、全体的にテロリストレベル。


そっくりさん設定も、惑星規模に発展したところはSFらしさが生まれてなくもないが、2時間半近い尺をつかってやるような「どんでん返し」*1ではあるまい。『銀河鉄道999』や『宇宙海賊ハーロック』の1エピソードならこれでも良いし、もともとスケールの小さな物語に合っている真相といえなくもないが。中間基地攻略のように、本筋に無関係な描写をばっさり切っていけば、もう少しタイトにまとまったのではないか。
また、惑星が地球の偽物とわかる証拠として、ロダンの「考える人」の左右が逆と指摘され、つづけて個人がこっそりもちかえっていたグラスに指紋がないことから地球人類ではないと確定するのだが、そこで記憶で劇中スケッチされた「考える人」が両膝に両肘をそれぞれ乗せているミスをおかしているのはご愛敬か*2

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figma テーブル美術館 考える人 石膏Ver. ノンスケール ABS&PVC製 塗装済み可動フィギュア

*1:映画予告でアピールされている。

*2:1時間47分47秒。実物は両肘を左足に乗せている。

『相棒 Season20』第7話 かわおとこ

母子家庭の少年が、母親が寝ているあいだに川に流された。姉によると、川男という妖怪のしわざらという。その川では数年前に水質汚染が問題になり、今また魚の変死があいついでいる。
数年前に汚染源となった工場の下流に別のガラス工場があり、そこは排水をタンクにためて再利用していた。そのガラス工場の若手社員も数ヶ月前に川に流され、溺死したというが……


今回の山本むつみ脚本は、古典的かつ現代的。母子家庭の生きづらさに、公害と妖怪をからめて、1時間の刑事ドラマにきっちりまとめている。
まず水質汚染を自主検査する住民運動にエキストラを用意し、VFXで風景に工場を合成したり、それらしい工場ロケがおこなえたのは、人気ドラマのリソースあってのことだろう。
その運動に参加している住民に母子家庭への評価で温度差をつくり、ただの群衆ではなく個性ある人々と感じさせたのも良かった。そこから特命係が住民の協力をえる展開にもつながっている。工場の社員にも温度差があり、組織のなかのそれぞれの選択が味わいあるドラマをつくっている。


もちろん川男に見えたのは黒いウェーダーを着た人間だったし、タンクにためた排水はもれだしていた。だいたいの真相を予想するのは難しくない。真犯人を特定するにあたって後づけの手がかりを出したことも感心しない。
いっそのこと水質汚染が過去にあったという歴史はなくして、川魚の怪死も妖怪のしわざのように視聴者へ見せかければ、もっと超常を現実的に解明する驚きがあったかもしれない。
しかし福島原発のような汚染水漏れや市民の自主検査を思わせる現代性を1時間のドラマに凝縮したことは貴重だし、水質汚染が真犯人を特定する展開も皮肉なだけでなく環境調査の重要性を感じさせる*1
妖怪の存在を信じずにいられなかった少女の動機をほりさげ、環境破壊とはまた別の社会問題に目くばせしたことも良いアクセントになっていた。

*1:ただ、良心的な社員の検査と、住民の検査をくみあわせて確定する描写にすれば、立場をこえた連帯感が出て良かったと思う。

『機動戦士ガンダムNT』

増えすぎた余剰人口が宇宙へ追いやられた時代。その戦争において、宇宙から巨大建造物が落ちてくることを予言して、人々を救った子供たちがいた。
しかしその超常能力に着目した人々が、人体実験で人命と尊厳を傷つけていく。生きのびて成長した子供たちは、不死鳥のような兵器をさがしはじめる……


人気シリーズの世界設定を踏襲しつつ、新たなスタッフがオリジナルキャラクターを創造した、2018年の完全新作アニメ映画。吉沢俊一はこれが初監督作品になる。

シリーズ原作者の富野由悠季監督が作品を重ねるごとにエキセントリックでスピリチュアルに位置づけていった「ニュータイプ」設定を、そういう架空の能力として設定を明確に固めて、歴史の影で進んでいた子供たちの犠牲の物語にまとめている。


制作の流れとしては福井晴敏の小説をアニメ化した『機動戦士ガンダムUC*1の別視点による外伝であり後日談*2。しかしメインスタッフは脚本として福井晴敏のみ残り、監督やキャラクターデザインなど若手がしめる。
何人かの演出スタッフや作画スタッフは共通するものの、映像スタイルに『UC』や『サンダーボルト』のようなシャープさがなく、『オルフェンズ』や『ビルドファイターズ』くらいゆるい*3
『機動戦士ガンダム サンダーボルト』 - 法華狼の日記

線の多いアニメデザインで再現された太田垣康男の人物デザインは、アニメデザインで線が少なくなって平凡な印象になってしまった伊藤悠の人物デザインより映像作品として魅力的。

特にメカニック作画が、自動車まで手描きして近年のアニメとしては力を入れているものの、ブロックを組みあわせたプラモデルのように見えた。装甲が薄く殻のように機械を覆っていると感じさせた『UC』の雰囲気が映像にない。
また、『UC』からカメオ出演的に登場するキャラクターが本編より安彦良和風の絵柄で、対するメインキャラクターが子供時代の多さもあって目の大きさが目立つため、齟齬を感じたのが良くも悪くも印象的だった。
それでいて、宇宙世紀ミッシングリンクを埋める物語として、「ニュータイプ」を主題にした時系列で最新の物語として、直接の前編の『UC』だけでなく、過去シリーズの映像も作画を変えたりせずにつかわれている。劇中映像としてつかわれたところは映画内でモノクロ映画がTVに映るシークエンスのような面白みがあったが、過去の歴史的な事象のように回想するのであれば違和感を消すように加工を入念にほどこすべきでは、と思った。


しかし社会と戦争の犠牲にされた子供たちの物語として、ドラマのコンセプトがとおっていたので意外と見やすくもあった。きちんとした大人になることが許されなかった子供たち、その生き残った多くが求められた能力をもっていない凡庸な存在でしかないことにも味わいがある。
ニュータイプ」という概念を超能力者としてとらえて解明していく物語であり、超常的な技術を前提としてさまざまな組織が暗躍するわけだが、それもそのような能力を期待されながら発揮できなかった子供たちの苦しみをきわだたせていた。急に世界観を壊すように奇跡が起きるのではなく、あらかじめ示された現象の範囲でストーリーが進むので、一種のSFとして成立していて悪くないし、むしろ富野由悠季作品におけるニュータイプ描写より好みだった。
人々が居住する巨大な宇宙建造物「コロニー」を地球に落とす攻撃にはじまり、そのような人々が平和に住んでいる特殊な場所で戦うことになり*4、最終的に大規模なコロニー落としをめぐる戦いになる……主要な戦闘がシリーズ初代からの作品を代表する設定にもとづいて展開されるので、戦闘のコンセプトも意外とはっきりしていて見やすい。


もともと簡素な主軸に大仰な枝葉を繁らせる福井晴敏のストーリーは、映像化で尺におさめるため枝葉をそぎおとすと主軸の脆弱さが暴露されがち。
しかしこの作品では主軸を新設せず既存のものから選んで、無駄な枝葉は最初から切り捨てたおかげか、簡素だが適度に太い軸がきちんと立っているように感じられた。

*1:以下、他のシリーズ作品もふくめて略す。

*2:厳密には原型的な短編小説『不死鳥狩り』が先行して書かれている。

*3:キャラクターデザインは近年のシリーズ大半に参加しているサンライズ生え抜きのアニメーター金世俊。

*4:ここで怪獣映画的な市街地を巨人が蹂躙する情景も楽しめる。

『世界まる見え!テレビ特捜部』神様のイタズラ2HSP

2時間SP。しかし公式サイトの細部タイトルがここまで省略する意味がわからない……
恒例となった声優ナレーションには佐倉綾音が参加。同じ放送局なので『僕のヒーローアカデミア』が紹介されたが、メインヒロインではありつつメインキャラクターという感じではない。
冒頭のミニ映像コーナーはちょくちょくフェイクの可能性を感じるものがあって、難しい時代だなと思う。もちろんヤラセ自体は昔からあったのだが。


モナリザがちょっと有名な肖像画を超えて、誰もが知る名画になったのは1911年の盗難事件によって。
現在は防弾ガラスごしの鑑賞となっているが、当時のルーブル美術館の警備はゆるく、写真撮影のため絵画をもちだすことも多くて、一昼夜たっても気づかれなかった。館内で模写していた人物がモナリザがいつもどってくるのか問いあわせて発覚したあたり、当時の美術館の雰囲気とモナリザの位置づけがよくわかる。
モナリザを盗んだ犯人として29歳のピカソが疑われる。しかしピカソルーブル美術館の別の盗難品を購入していただけだった……というが、盗難された美術品が若い一般人でも買えるあたりが、また時代を感じさせる。
そして盗難事件が新聞で大々的にとりあげられ、額縁がかけられていた壁に観客が押しよせる。ひどく風刺的な情報化社会のありようが興味深い。
しかしオチはしまらない。真犯人は当初に疑われた出入りのガラス職人で、上着に隠して盗んだだけで、本物を売ろうと接触してきてあっさり捕まった。当時すでにつかわれていた指紋による捜査も、その職人は調べていなかったという手落ちぶり……


ブラジルからは過激なドッキリ番組。一般人を巻きこむひどい裏切りドッキリが外国では今でもおこなわれているというパターン。
いつのまにかデモの先頭に立たされていて路地で警察との衝突に巻きこまれかけるドッキリは、そういうものなのかと色々な意味で思った。登場する一般人はすぐに第三者とアピールするが前後をはさまれ逃げられない。デモが国家の物語になっている国ではまた違った反応になるかどうか。
新発明の洗浄液を使用していたら、ニュースでその発明家が逮捕され、洗浄液をつかうと指がとれるというドッキリは演出がうまかった。あわてて手を洗い流そうと蛇口をひねっても水が出ず、洗面台をおおった布をとると中から複数の指が……という構成はけっこう感心した。


オランダからは大量の遺産が国庫におさめられてしまう前に、相続人をさがす番組。
老女から夫、子供、孫とたぐっていくなかでオランダの墓所などの文化がかいまみえる。そして一時期ホームレスで現在はリサイクルショップでボランティア*1をしていた青年に170万円ほどの遺産が手わたされた。
一般人が得するファミリーヒストリー的な面白さがあった。


世界各地のさまざまな鳥の巣を紹介するドキュメンタリは、標準的な動物ドキュメンタリとしてよくできていた。鳥の巣というテーマで物珍しさも出せている。
テリバネコウウチョウは大挙して樹木にとまり、マミジロマネシツグミを挑発して巣から遠ざけて托卵する。スタジオでカッコウの托卵が言及されたが、より大規模な作戦を群れで展開する光景はホラー映画のようでもあった。


イラクでは、2014年にジャーナリストが体験した奇跡を紹介。イスラム国による破壊活動がつづいていた当時、支援物資を投下するヘリに同乗することに。
しかしある日、たまたま物陰で横たわる少女スアドを見つける。病気らしい少女が気になったジャーナリストはヘリに乗ることをやめて、少女の祖父や両親とともに病院へつれていくことに。
そして乗るはずだったヘリは避難民が大挙してぶらさがろうとしたため墜落したと報告を受ける。しかしジャーナリストが少女のもとにもどると、祖父とともに姿を消していた。
このまま物語の一遍になりそうな奇妙な話だが、ジャーナリストはスアドの消息をさがしつづけ、ついに難民キャンプで再開。医療につなぐことに成功した。
スタジオではジャーナリストは自身で自身を助けたのだといった指摘がなされるなか、チョコレートプラネットの松尾駿が専門学校の修学旅行が中止になったことでテロを逃れられたと語る。しかし中止の理由が理事長のつかいこみというのは……

*1:雇用形態がよくわからないが、オランダの特殊事情があるのだろうか。

『トロピカル~ジュ!プリキュア』第37話  人魚の記憶! 海のリングを取り戻せ!

発見した指輪がバトラーに奪われながらも、プリキュアは女王たちがとらわれている場所にもどって助けようとする。そこで知ったのは、人魚と人間が知りあった長い歴史。しかしその保存された記憶のひとつがローラをひとり悩ませる……


原画複数の青山充作画監督回。新必殺技バンク用のアニメーターは入っているが、前編で負けた相手にリベンジするアクション回としては画面が弱い。
その新必殺技の発動条件となる指輪が、鏡をとおって瞬間移動してくる御都合主義もどうかと思った。「伝説のプリキュア」が介在しているなら、それをピックアップして納得できる描写にしてほしい。


それはさておき、前回で引っかかりをもたせた人魚の国の記憶をすいだす装置について、さっそく女王が説明して設定開示。
hokke-ookami.hatenablog.com
前回に言及した神格が一般人とは異なる次元の判断で動いた『スター☆トゥインクルプリキュア』ではなく、おそらくその前例となった『ハピネスチャージプリキュア!』の神格が他者との軋轢を恐れた禁忌に近いか。
hokke-ookami.hatenablog.com
そこで記憶をうばうという暴力的な装置をつかうこと、それが物語になるような長い歴史でつかわれつづけたことで、ひとりの超常的存在の私情ではなく全体主義の恐怖と感じさせる。
そしてそれが興味深くも背景を描くだけの設定開示に終わらず、ローラだけでなく主人公としての夏海のドラマにもむすびつく。作品のなかで世界と個人のありようがたがいを補強するように存在し、そしてそれが葛藤を生む。
他人と距離をすぐ縮めて今この瞬間を楽しもうとする夏海は一種の強迫観念で動いていて、傲岸不遜に次期女王を自認するローラは成長の糧となる出会いの体験を奪われていた。この方向を期待していなかったこともあって感心したし、主人公とパートナーがこれまで見せてきた歪みがさかのぼるように味わいを増す。
このシリーズの方向性ならば人魚の国のありようは否定されていくだろう。しかし禁忌が未来まで堅持されて、大人になって社会のなかで摩耗した夏海が、海辺で出会った奇妙な女に目をそむけたい感情をおぼえながら無意識に涙を流す……みたいな定番の最終回をむかえてもそれはそれで良いかもしれない。