法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

愛知県知事リコール不正事件で、佐賀県のアルバイトに名簿から書き写させていたとのスクープと、十年前のふりかえり

hokke-ookami.hatenablog.com
上記の件で調査がつづき、最初に不正に気づいた関係者の証言も出るなかで*1、ついに不正の現場作業者が告発した。
愛知県らしく中日新聞が報じたが、最初に告発されたのは現場に近い西日本新聞だという。
www.chunichi.co.jp
www.nishinippon.co.jp
地方紙が協力して市民の声をひろいあげたかたちになっている。
また、少し遅れた共同通信の記事では、運営事務局の指示があったと明記されている。
this.kiji.is
どのようにアルバイトへ不正作業が押しつけられていったのか、清義明氏が追った会社の流れも興味深い。
togetter.com


こうなると、今回のリコールを後押しした名古屋市長の河村たかし氏が、かつて対立する市議会のリコールに成功したことをふりかえりたくなる。
2010年、最初に46万人以上というリコールに充分な署名を提出したが、受任者が書かれていない不備があり、不正署名を除外すると微妙な状態になった。
名古屋市議会リコール署名/11万人分 受任者空白/審査延長へ

46万5594人分の署名のうち約11万4000人分で、署名集めを担当した「受任者」欄が空白になっていることが20日、分かりました。市選管は、24日までの審査期間を1カ月程度延長し、署名した人に質問用紙を郵送するなどして、署名が有効かどうか調査する方針です。21日の会議で正式に決定します。

 調査結果によっては、署名が解散の是非を問う住民投票に必要な法定数(36万5795人)を下回る可能性もあります。

そして一度は1万人以上足りなくなったが、河村側から再審査が求められて、12月になって法定数を3000人以上超える署名が認められた。
名古屋市議会リコール、署名は法定数を3213人上回る: 日本経済新聞

選挙管理委員会は15日、市長の支援団体が集めた署名の最終的な有効数が36万9008人分になったと発表した。当初の審査では、議会解散の是非を問う住民投票に必要な法定数(36万5795人分)を1万2004人分下回ったが、審査の結果、法定数を3213人分上回った。

支援団体らは約3万4千人分の異議を申し立て、再審査の結果、計1万5217人分の有効署名が上積みされた。

この成功体験が河村氏や周囲にとってどのような教訓となったのか、それはわからない。
リコール運動の試行錯誤で効果的な不正のやりかたを思いついたのかもしれないし、この時に厳しく審査されることを痛感したなら不正にはならないよう心がけたかもしれない。
ただ、この時に実作業で失敗した経験がありながら、今回も当初からさまざまな不手際があった*2ことを思うと、不正作業やその指示には河村氏と周囲が直接かかわっていない気はする。


ちなみにリコールされた側の自民党市議の横井利明氏によると、最初に認められたなかにも不正署名がまぎれこんでいる可能性があるという。
横井利明オフィシャルブログ(名古屋市会):残りの35万人の中にも不正署名

「あなたの署名が無効になっています!」と書かれた封書が郵送されてきたとお電話をいただいた。

「署名なんかしていないのに、なぜ?」

事実関係を調べるため、早速、ネットワーク河村市長に苦情電話をしたそうだ。「署名もしていないのに、なぜこんなものを送るの?」

すると回答は、「誰かがあなたの署名をしたんでしょう!」と他人事。この言葉で怒りは頂点に。明日、区役所選挙管理委員会に苦情を言いにいくとのことだった。

この方には、選挙管理委員会から調査票が送られていない。したがって署名について調査のあった11万4,000人の中には入っていない方であり、残りの35万人の署名の中の1人であろうと推測できる。つまり35万人の中にも替え玉署名があったことが証明された。

3213人という僅差でリコールが成立したことは、逆に35万人の1%に不正が混じっていればリコールは失敗していたことになる。なかなか微妙なところだ。
念のため、これは当時から市議側が公表していた情報ではあるし、選挙管理委員会も考慮しながら審査してリコールを認めたのだろうとは考えるが。

*1:Facebookの元ポストは消えているが、インターネットアーカイブなどで確認できる。b.hatena.ne.jp

*2:署名のナンバリングをおこたったことが、内部の新たな作業を発生させ、結果的に関係者に不正を気づかせるきっかけにもなったようだ。先述の関係者による証言にくわしい。

許される不謹慎ネタを思いつかないなら「ちんぴれすぽーん」とでもツイートしてればいい

一般論として、明らかなネタでもハラスメントは成立しうる。実行するつもりがない性的行為を示唆することは典型的なセクハラだ。

もちろん、ネタが必ずハラスメントになるという意味ではない。
セクハラになりうる事例の説明で下ネタを引用するなど、ネタそのものに距離をとれば、ハラスメントにはならないことはあるだろう。
性的な隠語なども、それと知らずに言葉をつかったなら、必ずしもセクハラと批判されるべきではないだろう。


また人間心理として、つまらないネタでも思いついたら口にせずにいられない心情もわからないではない。
ある種の自己防衛として、目前の悲劇を拒否するあまり茶化したくなる心理はあるだろう。それでも茶化すならば怒られる可能性も想定すべきだし、滑ったらいたたまれない気分になるだろうが。
しかし現在のインターネットでいえば、北朝鮮拉致被害者や京都アニメーション放火事件が不謹慎ネタにされているかと聞けば、まず見かけないのではないだろうか。インターネットは広いので露悪を競う場などで探せば見つけられるとは思うが、SNSで好意的なブックマークが集まり拡散されている事例は見たことがない。


それに「井戸に毒」という少数派を虐殺した口実を猿真似するだけで、虐殺した多数派をネタにできないのならば、不謹慎ネタとしては終わってる。たとえば、なぜ「日本人がBLMを虐殺している!!!!!」といった不謹慎ネタは大挙して出てこないのか。

不謹慎ネタで加害者にされるのは、話者ではなく他者ばかりだ*1。ここに隠された境界線がひとつある。

「……ところでエントリタイトルはパクリという別次元の問題があるんじゃないの?」
ちんぴょろすぽーんとは マンガの人気・最新記事を集めました - はてな

竹熊健太郎が発明した一発ギャグのためのフレーズ。初出は「サルでも描けるまんが教室」。
作品中で「一発ギャグ」の例として出したところ意外にも反響を呼んだ。

「それが元ネタがあると知らずオマージュで笑っている人が現実にいるのだよ」
『Mr.Clice 2巻』|感想・レビュー - 読書メーター

牧野由依さんのYui Makino Concert~twilight melody~に参加するオジャ
秋本先生のギャグの幅広さがわかった。ナポレオンの「ちんぴれすぽーん」にはくそ吹いた(笑)どこからそんな言葉が出て来るんだよ(笑)

moyu
局長の名前は「うひょひょわらった」 うはww 「ちんぴれすぽーん」てなんだよww

「ネタとはわかっていても、必ずしも文脈や背景に理解がおよばない問題はあるのだよ」

「……これを紹介したかっただけじゃないの?」

*1:念のため、匿名性に隠れた脅迫などは、むしろ不謹慎ネタの加害性から逃れた延長にあると考えるべきだろう。

『ドラえもん』大雪山がやってきた/チクタクボンワッペン

大雪山がやってきた」は、北海道へスキーに行くことをスネ夫に自慢され、のび太もどこでもドアで行こうとするが故障中。かわりに線でかこんだ場所を遠くと入れかえる秘密道具をつかうが……
2011年にアレンジを増やして放送枠いっぱいで映像化*1した原作をリメイク。善聡一郎コンテで正面顔を多用しているが、その作画がけっこうヘロヘロなのが気になった。
基本的には原作どおりで、楽しかったが特にいうこともないか。しかし連続して視聴すると、前回放送の「山おく村の怪事件」とオチのパターンが似ていることに気づかされる。
hokke-ookami.hatenablog.com


「チクタクボンワッペン」は、しゃっくりが止まらない父のためのび太ドラえもんが何度もおどろかすが、治すどころか邪険にされる。そこで秘密道具をつかうが……
長らく単行本未収録だった原作を、2005年以降で初アニメ化。レモン果汁や十字箸ごしの水飲みなど、しゃっくりを止めるためらしい父の描写が細かい。
秘密道具の被害が大きすぎて父をひどいめにあわせてからは、珍しくドラえもんも協力してジャイアンにしかける。しかしジャイアンは秘密道具のワッペンをプレゼントと釈明されたことに喜び、逆にのび太たちは爆発を止めることを決めて右往左往。
スネ夫しずちゃんも巻きこんで、人手をわたる爆発物を収集するパターンの物語がつづく。良くも悪くも標準的な出来なので、あとは爆発の作画がもう少し良ければ。使いまわしているし、劇場版に参加している凄腕アニメーターを1カットだけでも来てもらえればキレ味があがったと思うのだが。

『ドキュランドへようこそ』「RBG 最強の85才」(後編)

弁護士として女性の権利拡張を成功させてきたルース・ベイダー・ギンズバーグが、女性としては史上二人目の最高裁判事に選ばれ、ノトーリアスRBGと呼ばれる若者のアイドルとなった後半生を映す。
www.nhk.jp
最高裁判事になったRBGは、当初は妥協的な道を選んだという。保守派の最高裁判事とも、友好的な関係をきずき、ともにオペラを楽しんだりする。コメントで登場するブレンダ・フェイゲン弁護士が「私は右翼に親しい友人なんていません」と言明したことと対照的だ。
『ドキュランドへようこそ』「RBG 最強の85才」(前編) - 法華狼の日記

国家の利益に直結したり、女性差別の結果で男性が不利益をこうむったりする、男尊女卑社会でも認められやすそうな争点に「……なるほど」と思った。もちろんそれでギンズバーグが責められるべきというわけではなく、そのような方向性を選ばせた社会について考えこまされたといったところ。

しかし最高裁判事が入れかわり、保守派の重心が増すなかで、RBGは中道的な妥協策から対立路線を選んでいく。前半生と違って権利拡張運動家としては敗北を重ねながら、少数派の一票を投じて、その厳しい意見が若者の注目と人気を集めていく。
トランプ大統領を珍しく感情的にペテン師と呼び、謝罪に追いこまれもする。オバマ時代に引退すれば後任にリベラルな判事が選出できた可能性を指摘されながら、働けるかぎりは今の立場でありつづけることを堂々と語る。
弁護士でありつつ家事もこなした夫を2010年に失い、自身も二度の癌をわずらいながら、フィットネスで心身をきたえていく姿がまぶしい。少数派である立場を選んで、ノトーリアスの未来は輝いていた。


2018年のドキュメンタリーの最後に、RGBが2020年に没したテロップが追加される。トランプ大統領が米国の民主政治を破壊して、引きさがらざるをえなくなる直前までRGBは生きぬいた。
しかしドキュメンタリーでは語られないが、RGBの後任として保守派の、それも多くの能力的な疑問符がつけられている最高裁判事が誕生した。
トランプ氏、後任の最高裁判事に48歳女性指名へ 人工中絶反対の保守派 - BBCニュース

11月3日の大統領選を目前にした後任人事に、野党・民主党は猛反発している。

2016年に当時野党だった共和党が大統領選の年に終身の最高裁判事を決めるべきではないとして、バラク・オバマ大統領(当時)が指名した候補について審議を拒否した経緯もある。

慣例ならば大統領選の年は次の大統領が誕生するまで指名されなかった。憲法の理想に殉じたRGBが信念をまげて口走ったように、本当にトランプ大統領とそれを支えた共和党はペテン師だった。

NHK総合で『岸辺の旅』が放送されると思って録画したら、新型コロナウイルス特設サイトのQRコードが常時表示されていた……

録画で画質を落とした状態ではQRコードが読みとりづらいし、リアルタイム視聴でなら自動でサイトを表示することもできるのに。
何のための地上波デジタルなのか?と首をかしげた。


また、レターボックス放送で上下黒帯なのに、どうしてわざわざ画面内に表示を入れるのだろう?とも思った。思いっきり映画の映像部分を画面の上か下に寄せれば、もっとQRコードや説明文を大きなサイズで表示できそうなもの。
これに限らず映画の翻訳字幕なども、レターボックスであれば上下の黒帯に表示すれば映像のノイズがなくなると思うのだが、『ロードオブザリング』くらいしか実例を見ないのはなぜだろう。