法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

旭日旗も「反日」という解釈になるよね、「表現の不自由展」に選ばれたら「反日」の文脈になるならば

「あいちトリエンナーレ2019」の「表現の不自由展・その後」が再開されたが、今度は下記の「気合い100連発」が「反日」として攻撃されている。
Chim↑Pom | 表現の不自由展・その後

「安倍政権になってから、海外での事業へのチェックが厳しくなっている。書類としての通達はないが、最近は放射能、福島、慰安婦、朝鮮などのNGワードがあり、それに背くと首相に近い部署の人間から直接クレームがくる。」とのこと。

その攻撃を扇動したまとめブログ*1へ反論するid:ko5tys氏のエントリ*2に対し、はてなブックマークで下記のようなコメントがついていた。
[B! 読んだ] 表現の不自由展で物議を醸す気合100連発は何故「放射能最高」と叫んだのか? - ピルシトレ

id:aa_R_waiwai 全ての戦争被害にあった女性の象徴と言いながら、実際は戦争犯罪やりまくりの自国を絶対正義と扱う朝鮮ネトウヨのオナニー道具でしかない像の横で上映されてたのなら、ヘイト動画扱いされるのは至極当然。

id:confi 本当にセンシティブだけど芸術だっていうなら反日プロパガンダ展から撤去しろよ。韓国がここに来て徴用工問題のあてつけで放射能がどうとかいい出したのとシンクロしてるのなんて馬鹿でもわかるぞ。

他でも不自由展に対する不用意な反発を見ると、同じように並列されたことで反日の文脈が加味されるという主張や、展示作品が全て反日であるという評価が散見される。
[B! 増田] 「被爆最高!放射能最高!」はヘイトではない。

id:satomi_hanten 津田が含めたってことは主旨はそうなんだろ。むしろそうじゃなかったら一貫性がない。

id:hiroyuki1983 コンテクストを意識しろとか言ってるけど、じゃあこの作品が反日作品が並ぶことで批判を受けている芸術展に出品されているというコンテクストこそ意識するべきでは?

id:hirmir たとえ作品がヘイトじゃないとしても、あの作品群の中にあるということは、少なくとも運営側は反日の意味を持って置いてるんじゃないかな

id:howlingpot あの場所で展示された以上は前提としてoffensiveな表現と取られたのも事実。むしろ擁護派の人こそ別局面で「農業林業畜産漁業の人にヒアリングしよ。そこで否定されたらアウト」という論法を頻繁に使いそうなイメージ。

不自由展そのものは津田大介氏が呼んだが、不自由展内の展示作品は実行委員会が選んで、津田氏の推した作品は通らなかったという経緯すら把握されていないことがわかる。
念のため、当事者の主張と理解してなお批判すること、そう感じたことを述べることも表現の自由ではあるだろう。編集された作品への感想も自由であるべきだろう。
しかし、作品の情報が欠落あるいは歪曲された状態で批判することには限界があることも自覚されるべきだ。その自覚があるなら、まとめブログの情報を無批判に信用することはないだろうが。


さて、不自由展には旭日旗に見えるという印象から抗議を受けた作品も展示されている。ならば不自由展に不用意に反発した人々は、旭日旗反日と見なすのだろうか。
横尾忠則 | 表現の不自由展・その後

2012-2013年のニューヨーク近代美術館(MoMA)での「TOKYO 1955-1970:新しい前衛」展で起こった。彼の演劇や映画のポスターに用いられた「朝日」が、旧日本軍の旭日旗(自衛隊も使用中)を思わせる軍国主義的なものと在米韓国系市民団体「日本戦犯旗退出市民の会」が抗議を行った。

また、同時に展示されている横尾忠則作品は電車のラッピングが不謹慎として改変されたが、やはりターザンの叫ぶ顔を反日と考えるのだろうか。
公共の場所から撤去や改変をしいられた他の作品と違って、横尾作品は私企業の自粛であったり、市民団体の抗議にとどまっている。それでも「不自由」を象徴する出来事として展示された。


ちなみに、芸術側から津田氏のキュレーションを疑問視するインタビューにおいては、上記の電車ラッピングが写真展示であることをもって批判されていた。
津田大介インタビューへの反応を見るかぎり、ジャーナリストとアーティストの政治への距離感を逆に考えている人が多くないだろうか - 法華狼の日記
むしろアーティストほど政治的な中立性を批判しているような印象があるし、実際に同トリエンナーレで不自由展以外の出品作品でも、政治的なメッセージが強い作品は少なくない。

『相棒 Season18』第1話 アレスの進撃

英国から帰国したはずの杉下右京が行方不明になって1週間。漂着した携帯から海流をさかのぼると、日本北端の島で謎めいた交流団体に杉下が留め置かれていたことが判明した。
そしてその交流団体の若者たちがなぜか建物の各所で殺されて、犯人として若者のひとりの父親が浮かびあがる。その父親は娘をつれもどしに来た、元特殊部隊員だった……


輿水泰弘脚本と橋本一監督による、いつもの立ち上げ1時間半SP。公式サイトを見ると、今シーズンからはテレ朝キャッチアップで無料配信もされるらしい。
相棒 season18|テレビ朝日
船越英一郎*1をゲストにむかえ、事件解決は次回につづく。今回は浦島太郎をモチーフにしていて、杉下は脱法ドラッグで竜宮城のような夢を見せられていたりする。
しかし全体として物語の主軸が判然としない。不可能犯罪やフーダニットあるいは社会問題といった謎解きに興味を持たせるとっかかりがない。偽りの回想や幻覚など、劇中の現実には起きていないことを映像化して、その法則性を明らかにしていないので、映ったものが信頼できない問題もある。
素直に考えると、交流団体はドラッグの密輸入のため活動していたという真相が用意されていそうだが……かつてレギュラー出演していた俳優が日本の南端の島で大麻所持により逮捕された事件を思うと、今回の舞台設定そのものにスタッフの何らかの意図を感じてしまう。もちろん、まだその事件の構図すらよくわからない段階なので、意図があるにしてもその内容は見当もつかないが……

*1:カットを割りつつも、反町隆史を相手にしたアクションの動きはキレが良く、演出の手腕ともども感心した。

参議院で消費税増税を決めた議員は、民主党より自民党が多かったことは記憶しておきたい

当時に与党だった民主党と、野党だった自民党公明党の合意で決められた消費税増税
そこで10月1日から混乱の要因として批判されている軽減税率は、民主党が決めたものだと公明党衆院議員である伊佐進一氏がツイートしていた。

もちろん軽減税率は公明党が主張したものであって*1増税前には公明党広報アカウントも「政党で唯一主張し、実現させました」ツイートしていた。

伊佐氏は消費税増税法案が可決後の2012年12月から議員となったが、それ以前は文科省副大臣の秘書官をつとめるような官僚だった。
十年もたたないのに、当事者に近しい政治家すら当時の状況を忘却しつつあるのか。


消費税増税そのものについては、当時に政権をとっていた民主党の責任を最も強く問うまでは理解できる。景気条項を自公政権が外した問題などを無視すれば。
しかし2012年6月の衆議院における採決では、まだ議員の比率は圧倒していた民主党から57名もの反対票が投じられ、15名が棄権した。もちろん自民党公明党から批判された。
「社会保障と税一体改革」について | コラム | 自民党の活動 | 自由民主党

今回の採決においても党内から57名の造反者がでたように、民主党はもはや政党の体を成していません。

わが党としては、社会保障と税の一体改革法案に一定の結論をつけた上で、早急な解散・総選挙により、「決められる政治、進められる政権」の実現に向け、国民の信を問うことを求めていきます。

衆院採決で大量造反 | ニュース | 公明党

3党幹事長が署名した合意の再修正は「常識的には考えられない」(公明党井上義久幹事長)。民主党は責任をもって党内の混乱を収束させ、速やかに審議を開始して一体改革関連法案の早期成立を図るべきだ。

このように自民党民主党を「何も決められない政治」と批判していた。消費税増税を決めたのは自民党だという自信すらうかがえる。
事実として自民党中川秀直氏のような欠席者こそ出したものの、目立った反対票が投じられることはなかった。
消費増税法案が衆院通過 賛成363票、反対は96票 :日本経済新聞

民主党で消費増税法案に反対したのは小沢元代表や鳩山元首相ら。羽田孜元首相、石関貴史氏、横山北斗氏の3人は欠席した。自民党では中川秀直元幹事長が欠席した。無所属では与謝野馨官房長官鳩山邦夫総務相が欠席した。

民主党は反対票を投じた小沢グループの除名などから分裂にいたり、単独過半数を維持できなくなり、むしろこの時から「何も決められない政治」となった。


さらに、2012年8月におこなわれた参議院の採決を見ると、賛否の比率が少し興味深いことになっている。
社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法等の一部を改正する等の法律案(内閣提出、衆議院送付):本会議投票結果:参議院

投票総数 237   賛成票 188   反対票 49

まず、上記のように過半数どころではなく、賛成票が3倍以上を集めている。
ならば当然のように民自公の議員すべてが賛成票を投じたのかというと、民主党は6人もの造反者を出していた。

民主党・新緑風会( 88名)

  賛成票 81   反対票 6

田城郁氏、徳永エリ氏、水戸将史氏、有田芳生氏、植松恵美子氏、大久保潔重氏の6名だ。
一方、自民党統一会派をふくめて橋本聖子氏と丸川珠代氏の2名が出席しなかっただけ。

自由民主党たちあがれ日本無所属の会( 87名)

  賛成票 85   反対票 0

もともと議員数が拮抗していたこともあり、参議院での賛成票は自民党民主党を上回っているのだ。
ちなみに公明党は谷合正明氏が欠席しただけで、反対した議員はやはりいない。

公明党( 19名)

  賛成票 18   反対票 0

すでに厳しい処分がされることがわかっていたのに民主党から造反した議員たち。
その個々のふるまいは「決められない政治」ではなく、良し悪しはさておき「決められる政治」だったようにも思える。

『スター☆トゥインクルプリキュア』第35話 ひかるが生徒会長!?キラやば選挙バトル☆

香久矢まどかが生徒会長を退任するにあたって、今回は次期会長を指名するのではなく、立候補を呼びかけることを選んだ。
しかし姫ノ城桜子が推薦されるかたちになるよう待っていると、香久矢は星奈ひかるに立候補するよう呼びかける……


脚本は広田光毅。今回のようなプリキュアの本筋に無関係な会長選エピソードは、シリーズで不定期にくりかえされてきた。
『スマイルプリキュア!』第37話 れいかの悩み!清き心と清き一票!! - 法華狼の日記
『魔法つかいプリキュア!』第35話 生徒会長総選挙!リコに清き一票を! - 法華狼の日記
しかし高橋晃と上野ケンが作画監督をつとめ、芝居がていねいで表情が細やか。そうして主人公らが変わっていく姿をきちんと映像化して、うまく物語を動かしていたと思う。
主人公が自ら選挙から降りる結末すらも以前にもあったが、より洗練されているし*1、予定調和と感じさせない意外性と納得感が両立していた。


新風を求めて立候補してくる人材を求めていたはずの香久矢が、事実上の次期推薦するという矛盾。自由奔放な星奈が生徒会長らしくあろうとして、香久矢の手腕を学ぶまでは良いとして、前期会長の模倣を語るだけになる問題。
調子良く選挙活動をつづけているかのような前半の細かな違和感に首をかしげていたら、きっちり後半で伏線として回収されていく。香久矢は星奈の良さを失わせてしまったことに落胆し、星奈は真似をしているだけの自分に気づく。


星奈の対比となる姫ノ城は、ただ自分が中心に立ちたい政策ばかりに見せて、それなりに学生の意見を集める手法だったことが明かされていく。周囲が何も言わなくても察する香久矢個人の能力に依存するのとは違う、継続性のある新たな体制。
それでいて、そうした姫ノ城の良さを星奈が気づくことができたのは、香久矢のように周囲に気を配ろうと心がけていたためだ*2。選挙戦を経験したことは星奈にとっても無駄ではなかったのだ。
もちろん、高慢な性格の問題がうやむやにされることもなく、姫ノ城は人気をえられないことで迷っていく。星奈のポスターのはがれかけた角をつまんで、はがすかのような葛藤する動きを見せ、それがプリキュアの敵組織につけこまれる。
そしてプリキュアに変身した星奈に助けられた姫ノ城は、それを知らず星奈のポスターをきちんと張り直し、選挙にいどんだ。予想外に清々しい青春の一頁。

*1:とまどう周囲とは異なる評価をくだす少年が、良いエクスキューズかつアクセントになっている。

*2:ただ、立ち聞きを終えた姫ノ城が手帳を落とすのは、説明的な引いた構図で、アニメーションの芝居も不自然で、作り手の作為が目立っていた。カットを割って不自然さを隠すか、あるいは立ち聞きする直前のあわてて隠れた時に手帳を落としたほうが自然だったろう。

『ドラえもん』ねこっかぶり/強~いイシ

土曜日に放映枠を移動しての初放送。2017年リニューアルから監督をつとめた八鍬新之介がいつのまにか劇場版に専念し、大杉宜弘チーフディレクターが単独クレジットされるようになったが、今回から2017年以前に監督をつとめていた善聡一郎がチーフディレクターとして単独クレジット。
OPも変更され、一昨年の映画『のび太の宝島*1の主題歌「ドラえもん」にあわせてデザイン化されたMVに。映画には内容に比べてポップすぎるかなと思っていたが、TVアニメでは壮大さと身近さのバランスがちょうどいい。
新コーナー「スネ夫としげお」は実写の俳優とアニメキャラクターがかけあいながら次回を予告。ちょっと本編にツッコミを入れるコーナーのようでもあり、ていねいに愛情をもって作れば楽しめそう。


「ねこっかぶり」は、自由な野良猫になりたいと思ったのび太に、そう変身できる秘密道具をドラえもんが出してみる。さっそく猫生活を満喫するのび太は、ニャン太郎という野良猫と仲良くなる……
アニメオリジナル秘密道具を使って、日常を異なる視点で見つめ、違う社会を知るストーリー。脚本は高橋悠也で、コンテは氏家友和。
原作短編「オオカミ一家」や2011年の「カワウソのび太の大冒険」に通じる動物変身譚でありつつ、絶滅危惧種とはまた違った動物と人間の関係性を描いた。低い目線から見上げる商店街や、神社で野良猫が集会する情景*2など、レイアウトや背景美術もしっかりしている。
野良猫として気ままにふるまいながら人間としての習慣を捨てないのび太に、親身になって助けてやろうとするニャン太郎のキャラクターがいい。人間社会から盗む描写も野良猫視点になれば面白い冒険譚で、なおかつ嫌悪感が強くない被害者を選んでいる。そうして猫との関係はストレスを抑えつつ、さまざまな苦労や天敵を描いて、猫も気ままなばかりではないと実感できる。
ニャン太郎とは正体を知られず別れたまま終わり、人間となったのび太が最後に救うのが野良猫時に敵対したクロなのも、ただ助けてくれた一匹に同情するのではなく、猫全体へ視野を広げたという感動があった。


「強~いイシ」は、のび太にランニングする決意を守らせるため、一定時間強制する秘密道具が使われる。まず禁酒できない野比父で試験して、のび太も一時間ランニングするよう設定したが……
2008年に映像化*3された原作を、善聡一郎監督コンテで再アニメ化。脚本は伊藤公志がつとめた。
原作や2008年版では禁煙なのに、禁酒になっているアレンジが時代性か。それもアルコールが手放せない依存症というより、高級な洋酒をもらったので一口飲みたいというくらいの描写になっている。
その他は基本的に原作通りだが、良質な作画で細部の描写をつめている。まずグラスにそそぐ洋酒の液体作画が目を引く素晴らしさで、手描き作画で飛びまわりジャイアンと戦いをくりひろげる秘密道具のアニメーションも良好。
秘密道具の時間設定ミスが明らかになる逆転は、CMをはさんで感動的な止め絵演出を使い、落差を強調。そのミスにドラえもんが気づいたのも、遠目で見てではなく必死で捕まえて間近で見た時。のび太の女装がばれたのも、一安心した油断からではなく、スネ夫を登場させて自然に指摘させた。

*1:『映画ドラえもん のび太の宝島』 - 法華狼の日記

*2:何かの児童文学で似た描写を読んだ記憶がうっすらとあるが、具体的なタイトルは思い出せない。

*3:なぜか2011年に通常回で再放送された。 空飛ぶ! 野比家のコタツ/強〜いイシ - 法華狼の日記