法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『スター☆トゥインクルプリキュア』第35話 ひかるが生徒会長!?キラやば選挙バトル☆

香久矢まどかが生徒会長を退任するにあたって、今回は次期会長を指名するのではなく、立候補を呼びかけることを選んだ。
しかし姫ノ城桜子が推薦されるかたちになるよう待っていると、香久矢は星奈ひかるに立候補するよう呼びかける……


脚本は広田光毅。今回のようなプリキュアの本筋に無関係な会長選エピソードは、シリーズで不定期にくりかえされてきた。
『スマイルプリキュア!』第37話 れいかの悩み!清き心と清き一票!! - 法華狼の日記
『魔法つかいプリキュア!』第35話 生徒会長総選挙!リコに清き一票を! - 法華狼の日記
しかし高橋晃と上野ケンが作画監督をつとめ、芝居がていねいで表情が細やか。そうして主人公らが変わっていく姿をきちんと映像化して、うまく物語を動かしていたと思う。
主人公が自ら選挙から降りる結末すらも以前にもあったが、より洗練されているし*1、予定調和と感じさせない意外性と納得感が両立していた。


新風を求めて立候補してくる人材を求めていたはずの香久矢が、事実上の次期推薦するという矛盾。自由奔放な星奈が生徒会長らしくあろうとして、香久矢の手腕を学ぶまでは良いとして、前期会長の模倣を語るだけになる問題。
調子良く選挙活動をつづけているかのような前半の細かな違和感に首をかしげていたら、きっちり後半で伏線として回収されていく。香久矢は星奈の良さを失わせてしまったことに落胆し、星奈は真似をしているだけの自分に気づく。


星奈の対比となる姫ノ城は、ただ自分が中心に立ちたい政策ばかりに見せて、それなりに学生の意見を集める手法だったことが明かされていく。周囲が何も言わなくても察する香久矢個人の能力に依存するのとは違う、継続性のある新たな体制。
それでいて、そうした姫ノ城の良さを星奈が気づくことができたのは、香久矢のように周囲に気を配ろうと心がけていたためだ*2。選挙戦を経験したことは星奈にとっても無駄ではなかったのだ。
もちろん、高慢な性格の問題がうやむやにされることもなく、姫ノ城は人気をえられないことで迷っていく。星奈のポスターのはがれかけた角をつまんで、はがすかのような葛藤する動きを見せ、それがプリキュアの敵組織につけこまれる。
そしてプリキュアに変身した星奈に助けられた姫ノ城は、それを知らず星奈のポスターをきちんと張り直し、選挙にいどんだ。予想外に清々しい青春の一頁。

*1:とまどう周囲とは異なる評価をくだす少年が、良いエクスキューズかつアクセントになっている。

*2:ただ、立ち聞きを終えた姫ノ城が手帳を落とすのは、説明的な引いた構図で、アニメーションの芝居も不自然で、作り手の作為が目立っていた。カットを割って不自然さを隠すか、あるいは立ち聞きする直前のあわてて隠れた時に手帳を落としたほうが自然だったろう。

『ドラえもん』ねこっかぶり/強~いイシ

土曜日に放映枠を移動しての初放送。2017年リニューアルから監督をつとめた八鍬新之介がいつのまにか劇場版に専念し、大杉宜弘チーフディレクターが単独クレジットされるようになったが、今回から2017年以前に監督をつとめていた善聡一郎がチーフディレクターとして単独クレジット。
OPも変更され、一昨年の映画『のび太の宝島*1の主題歌「ドラえもん」にあわせてデザイン化されたMVに。映画には内容に比べてポップすぎるかなと思っていたが、TVアニメでは壮大さと身近さのバランスがちょうどいい。
新コーナー「スネ夫としげお」は実写の俳優とアニメキャラクターがかけあいながら次回を予告。ちょっと本編にツッコミを入れるコーナーのようでもあり、ていねいに愛情をもって作れば楽しめそう。


「ねこっかぶり」は、自由な野良猫になりたいと思ったのび太に、そう変身できる秘密道具をドラえもんが出してみる。さっそく猫生活を満喫するのび太は、ニャン太郎という野良猫と仲良くなる……
アニメオリジナル秘密道具を使って、日常を異なる視点で見つめ、違う社会を知るストーリー。脚本は高橋悠也で、コンテは氏家友和。
原作短編「オオカミ一家」や2011年の「カワウソのび太の大冒険」に通じる動物変身譚でありつつ、絶滅危惧種とはまた違った動物と人間の関係性を描いた。低い目線から見上げる商店街や、神社で野良猫が集会する情景*2など、レイアウトや背景美術もしっかりしている。
野良猫として気ままにふるまいながら人間としての習慣を捨てないのび太に、親身になって助けてやろうとするニャン太郎のキャラクターがいい。人間社会から盗む描写も野良猫視点になれば面白い冒険譚で、なおかつ嫌悪感が強くない被害者を選んでいる。そうして猫との関係はストレスを抑えつつ、さまざまな苦労や天敵を描いて、猫も気ままなばかりではないと実感できる。
ニャン太郎とは正体を知られず別れたまま終わり、人間となったのび太が最後に救うのが野良猫時に敵対したクロなのも、ただ助けてくれた一匹に同情するのではなく、猫全体へ視野を広げたという感動があった。


「強~いイシ」は、のび太にランニングする決意を守らせるため、一定時間強制する秘密道具が使われる。まず禁酒できない野比父で試験して、のび太も一時間ランニングするよう設定したが……
2008年に映像化*3された原作を、善聡一郎監督コンテで再アニメ化。脚本は伊藤公志がつとめた。
原作や2008年版では禁煙なのに、禁酒になっているアレンジが時代性か。それもアルコールが手放せない依存症というより、高級な洋酒をもらったので一口飲みたいというくらいの描写になっている。
その他は基本的に原作通りだが、良質な作画で細部の描写をつめている。まずグラスにそそぐ洋酒の液体作画が目を引く素晴らしさで、手描き作画で飛びまわりジャイアンと戦いをくりひろげる秘密道具のアニメーションも良好。
秘密道具の時間設定ミスが明らかになる逆転は、CMをはさんで感動的な止め絵演出を使い、落差を強調。そのミスにドラえもんが気づいたのも、遠目で見てではなく必死で捕まえて間近で見た時。のび太の女装がばれたのも、一安心した油断からではなく、スネ夫を登場させて自然に指摘させた。

*1:『映画ドラえもん のび太の宝島』 - 法華狼の日記

*2:何かの児童文学で似た描写を読んだ記憶がうっすらとあるが、具体的なタイトルは思い出せない。

*3:なぜか2011年に通常回で再放送された。 空飛ぶ! 野比家のコタツ/強〜いイシ - 法華狼の日記

「きれいなヘイト」という表現が生まれる前に私が疑問視したことが、「きれいなヘイト」と非難した側の発言として紹介されている意味がよくわからない

letssaga3氏のまとめたTogetterに私のエントリが冒頭で紹介されていたのだが、なぜ私がそこに組みこまれているのかが理解できない。
【きれいなヘイト論】韓国政治学者の浅羽祐樹氏、「帝国主義をキメてる」と非難される【オレ先生】 - Togetter

この節は基本的に、浅羽氏らを「きれいなヘイト」と非難した側の発言です(木村幹氏の発言のみ、それに対する反論です)。
従軍慰安婦問題についての浅羽祐樹教授の見解がよくわからない - 法華狼の日記

紹介されている私のエントリは、浅羽祐樹氏を疑問視する先行意見として参照されてはいるらしいが、あくまで「疑問」の段階であって、私自身は「非難」というほど強い評価をおこなったつもりはない。
結論部で「専門家として充分な根拠と責任をもって主張しているだろうと期待している。だからこそ感じた疑問点を簡単に列挙することにした」という、エントリの意図も明記している。


ちなみに浅羽氏は私に対して見当違いな反発を重ねただけで、残念ながら私の疑念は強まってしまった。
浅羽祐樹教授はSYNODOS記事を疑問視されると「著作も論文も読まずにツイートだけで判断するとは」と反応するような人物 - 法華狼の日記

私はまずはWEBメディアの記事を疑問視し、できるため疑問を解くためにツイッターとてらしあわせた。まず判断の基準にしたのはSYNODOS記事なのに、なぜ「インターネットだけで判断するとは」と表現しなかったのか。

さらに、いったんツイッターを閉じて過去ツイートを複数削除し、その発言の「責任」の重みを示してしまった。
発言を消す権利と、発言した責任のゆくえ - 法華狼の日記

ツイッターを重視しないのは自由だし、消すのも自由ではあるだろう。


しかし浅羽教授は、朝日新聞が過去報道を検証したことについて、検証の遅れを検証するべきと主張していた。

もちろん紹介されているエントリやコメント欄で「きれいなヘイト」という表現そのものも使っていないし、使われていない。


その表現が使われたのはletssaga3氏が私のエントリの次にTogetterで紹介している下記のイベントらしく、私が浅羽氏に言及した1ヶ月以上後だ。

archive.is

その後に私が浅羽氏の著作に対して低評価したことはあったが、そこでも「きれいなヘイト」という表現は特に使っていない。
浅羽祐樹『韓国化する日本、日本化する韓国』巻末の読書案内を読んで、池上彰氏と同じくらいの信頼性と感じた件 - 法華狼の日記

うまいことをいおうとした欲が、良くなかったというところか。もともと原文から多義的であったものを、日本語訳と韓国語訳のちがいと過剰に意味づけてしまったわけだ。

浅羽祐樹『韓国化する日本、日本化する韓国』において、「強制連行はなかった」等の事実誤認が「いちいちもっとも」と評されていた件について - 法華狼の日記

もっともに見えてそうではないと柔らかく批判するための前振りかというと、そういうわけではない。前後の記述を読んでも、どこまでも「ゲーム」の「ルール」にのっとっていないという枠組みの批判ばかり。


あと、letssaga3氏がTogetterにまとめたツイートの内容そのものも、あまり筋が良いものとは思えない。
たとえば浅羽氏のツイートを「浅羽氏の反論と自説」と説明しているが、たとえばletssaga3氏自身が紹介している下記の批判に対して、反論や訂正にあたるツイートは見当たらない。

浅羽祐樹氏がデマ「韓国の子どもはヴィヴァルディ『四季』を聞いたことがない」 - NAVER まとめ

また、日本が加害した戦争犯罪を相対化しつつ日本が被害を受けた戦争犯罪絶対評価を求めるようなConscript1942氏*1を「浅羽氏への賛同・支持」に入れている。

もっとも、下記のような誤謬*2に満ちたツイートをする人物が、今の「浅羽氏への賛同・支持」をおこなっていることは象徴的なことかもしれないが……

『BS1スペシャル』隠された“戦争協力” 朝鮮戦争と日本人

BS1で前後編として放映されたドキュメンタリーを地上波深夜放送で視聴。
「隠された“戦争協力” 朝鮮戦争と日本人」 - BS1スペシャル - NHK

1950年に勃発した朝鮮戦争。今回、米軍の支援に当たっていた日本人70人の尋問記録をアメリカで発見。朝鮮半島の最前線で、日本人が戦争に関わっていたという記録が初めて明らかになったのだ。尋問後、米軍は一切の口外を禁じ事実を封印していた。

テッサ・モーリス・スズキ氏が別件で公文書を調査していて発見した尋問記録。そこには過去から知られていた後方支援を超えて、前線で実戦に参加した日本人がいた事実がしるされていた*1。その尋問された人々をNHKはさがし、たどりついた遺族から証言を集める。
福岡県の博多にあった駐留軍基地ではたらいていた若者たちが、通訳などのために米軍から協力をもとめられたという。第二次世界大戦終結にともなって大きく軍縮していたため、それが増強されるまで日本からも人員をかきあつめたのだ。当時の朝鮮半島の地図に日本語がつかわれていたことも一因らしい。こんなところにも日本の植民地政策が影を落としていたわけだ。
そしてはげしい戦闘のため、日本人もまた軍属として戦闘に参加することに。現場にいた米兵のひとりは日本人はヒーローだったと日本の取材にこたえ、別の米兵は占領軍に指示されたから従っただけと指摘する。後者の米兵は、避難民に朝鮮人民軍がまぎれていることを米軍が恐れて、北部から戦火に追われた人々を国連軍も攻撃していたことも証言する。その個人としての誠実さに感じいるものがあった。
当時、朝鮮民主主義人民共和国は日本人が戦闘に参加していることを国連で批判したが*2、米国はその事実を公式に否認した。


つづけて放映された後編では、前編では隠されていた日本人の戦死者について克明にほりさげていく。
日本人の戦闘参加を否認した米国は、その戦死者を密航者とあつかい、公式な軍属とは認めなかった。番組は戦死者がどのように米軍と関係をもっていったかを調査し、当時に同じ部隊にいた車椅子の老人と、その部隊をひきいていた大尉の遺した手記を見つけだす。
丸腰の民間人が祖国をはなれた激戦地へ密航することなど容易でないことは当然だが……思えば日本軍慰安婦と業者に対して、勝手に軍隊の後をついてきたと日本政府などが強弁していた過去を連想せざるをえない。責任を逃れようとする国家の理屈はどこもさして変わらない。
そしてドキュメンタリーは2003年のイラク戦争を受けて朝鮮戦争に参加したことを証言した人物や、トランプ大統領と安倍首相の会見と同日におこなわれた朝鮮戦争の記念式典を映していく。遺族は番組の協力で戦死したと思われる地域へいき、身元不明で収集された合同の墓標に案内される……国家が協力した動員によって犠牲となり、不都合になれば隠滅して忘却された個人。
過去の終わった事件ではなく、今もつづく問題として見つめていく。そのような制作者の覚悟がつたわってくるドキュメンタリーだった。

*1:掃海艇が派遣されたことは以前から知られている。

*2:侵攻した側が主張するのはどうなのかと本当に思ったが。

『セイクリッドセブン 銀月の翼』

2011年に1クール放映されたTVアニメを、主人公のライバル視点で約1時間にまとめて2012年に公開された劇場版。

大橋誉志光監督他、メインスタッフの多くはTV版から継続。脚本のみ、第8話にだけ参加していた綾奈ゆにこが単独でクレジット。
主人公の知らないところで戦っていたライバルの描写で、多くの新規作画も追加されつつ、もともと統一感のあったTV版とのつなぎもスムーズ。


TV版は、事件に巻きこまれて特殊能力をえた主人公の視点。1話ごとの怪物を倒しながら、ライバルの謎めいた言動に反発し、やがて味方側で暗躍していた黒幕と戦うことになった。
劇場版は、特殊能力の実験体となったライバルの視点。最初から事態の全容を把握しているので、短い尺でも説明不足がほとんどない。TV版の序盤でライバルが何をしていたかもわかり、全体の見通しが良くなった*1
まっすぐ疑問をぶつけてくるTV版の主人公が、ライバル視点だと何も知らないのに説教してくる面倒くささが理解できるし、説明する時間が惜しい感情もわかる*2


TV版の主人公とヒロインが結末で距離を縮めるサービスもあるし、Blu-ray特典のピクチャードラマは約20分近くの学園パロディが楽しい。
TV版は良くも悪くも優等生すぎて埋もれた感があったが、その生真面目さが制限の厳しい総集編でも楽しめる作品を提示する姿勢につながったように感じられた。

*1:宇宙戦艦ヤマト2199』の総集編ではいったん構想しながらとりやめたそうだが、やはり総集編を短くまとめる時に効果的な方法のひとつだ。『宇宙戦艦ヤマト2199 追憶の航海』 - 法華狼の日記

*2:ライバルだけでなく主人公も会話をすぐにあきらめてしまうため情報の共有が遅れたという構図は、オーディオコメンタリーでスタッフも自覚的に指摘している。